史上最も呪われた映画は? 悲惨なトラブルに見舞われた邦画(3)キャスト死亡でお蔵入り…予算不足が生んだ悲劇
近年、映画撮影中の悲惨な事故が度々ニュースで報じられる。特に昭和時代には日本国内でも、壮絶な撮影現場が多く存在した。今回は、制作中に悲惨なトラブルに見舞われた「呪われた映画」を5本セレクトする。有名俳優の大怪我や、時には死亡事故にまで至ったケースなど、その背景と事故の詳細を振り返りながら紹介する。第3回。(文・阿部早苗)
『東方見聞録』(1993)
上映時間:123分 監督:井筒和幸 脚本:神波史男、高橋洋、井筒和幸 キャスト:緒形直人、設楽りさ子、柴俊夫、ケント・デリカット、筒井道隆、徳井優、フランキー堺、藤田弓子 【作品内容】 戦国時代を舞台に、7人の騎士が一獲千金狙って黄金の宝を探求する冒険を描く。俳優・緒形直人、フランキー堺など豪華キャストに加え、女優・設楽りさ子(現・三浦りさ子)の映画デビュー作でありながら公開中止となった井筒和幸監督作。 【注目ポイント】 ピンク映画で監督デビューを果たし、『ガキ帝国』(1981)、『パッチギ!』(2005)、『黄金を抱いて翔べ』(2012)など、数々のヒット作を手がけてきた鬼才・井筒和幸。そんな井筒の過去作には、実はお蔵入りした作品があることをご存知だろうか。1991年に制作された『東方見聞録』だ。 総製作費8億円の戦国超大作―。そんな触れ込みで製作が始まった本作だったが、実のところ製作費の半分は制作会社社長の借金返済に充てられたため、実質製作費は4億円。しかも、滝壺のオープンセットに3億円がかかり、撮影早々に製作費不足に陥ってしまう。 ここでやめておけばいいのに…。スタッフ・キャストの誰もがそう思ったことだろう。しかし、製作費不足くらいで井筒は怯まない。そして、因縁の滝壺のオープンセットで事件は起こった。 被害者となったのは、足軽役のエキストラ俳優だ。彼は、手と足を縛られた状態で水深2メートルの滝壺に飛び込んだ。 本来であれば、そのまま俳優は水面に浮かび上がってくるはずだった。しかし、いつまで経っても浮かび上がってこない。それもそのはず、彼は手足に8キロの鎧を身に着けていたのだ。 そして、異変を察知したダイバーが飛び込み、溺れた彼を救出する。しかし、すでに手遅れだった。翌日、彼は搬送先の病院で息を引き取った。 井筒をはじめスタッフ一同は、遺族からの告訴で書類送検となり、撮影も中断。滝壺のオープンセットも解体された。しかしその後、周囲の説得によって再開。東宝スタジオの屋内に再び滝壺のセットが作られた。 その後、作品は無事完成するも、撮影中の死亡事故が問題視され公開は中止に(1993年にオリジナルビデオ、2001年にDVDが販売)。そのため、制作会社はキャストへの出演料が払えず倒産。遺族補償金は井筒が支払ったという。 井筒といえば、監督業のみならず、歯に衣着せぬコメンテーターとして知っている人も多いことだろう。映画を愛するが故の厳しいコメントの背景には、様々な思いを感じずにはいられない。 (文・阿部早苗)
阿部早苗