星野リゾートの“監獄ホテル”となる「旧奈良監獄」にはどんな罪人がいたのか? 重罪犯となった少年たちの声
「あたたかい手」
ねえ かあさん あなたの手は ときに 強く抱きしめてくれた ときに やさしく涙をふいてくれた ときに 怒られ 叩かれ 冷たい手だと感じたけれど どんなときでも あなたの手は あたたかい手 そんな手を持つあなたが 大好きです 【寮さんの解説】 「いいおかあさんだと思いました」「親への感謝をすなおに言えていいなあと思いました」次々に声があがります。 みんなが前向きの感想を述べるなか、一人だけ「ぼくは、親に感謝するような話に、いつも反発を感じてきました」と言う子がいました。 その子は、少し間を置いて、こう付け加えたのです。 「でも、いま気がつきました。ほんとうは、ぼく、うらやましかったんだなって」 さみしさを封印してきた彼が、自ら心の蓋を開いた瞬間でした。 最後に、作者のAくんの話を聞いて、声を失いました。 「自分は、親とは赤ん坊のころ、二年だけしかいっしょに過ごせませんでした。だから、 顔も覚えていません。こんなおかあさんだったらいいなあ、という夢を書きました」 「反発を感じた」といった彼も、はっと顔を上げ、Aくんをじっと見つめていました。 その彼が、次の時間、こんな詩を書いてきてくれました。
「愛について考える」
愛って もらうものではなくて 与えるもの 与えようとする気持ちこそが 愛 もらいたい気持ちは 欲 ぼくは 家族の愛を知らずに育った だから 家族の話をきくと いらだちしか湧かなかった でも それはうらやましかったからだ と いまは 素直に思える 愛を欲しい自分 愛を与えたい自分に 気がついたから これからは 「与えてもらえる人になるため 人に与えていきたい」って思う 【寮さんの解説】 「世の中の人がみんなが、愛を与える人になれば、みんながもらえる人になると思いまし た」と、感想を言ってくれた子がいました。ほんとうに、そんな世の中になったらいいの にね。 *** 「犯罪者に甘すぎる」という声に対して、寮美千子さんは「被害者の立場に立てば当然」であり、「償いの気持ちは一生真摯に抱き続けてもらいたい」と言う。だが、「受刑者に反省だけを迫り、懲らしめ続けても、むしろ恨みや孤独感を募らせ、再犯へと導くことにもなりかねない」と寮さんは語る。再犯を防ぐことは“未来の被害者”を減らすことでもある。こうした思いで、寮さんは少年らと向き合っている。 寮美千子 1955(昭和30)年、東京生れ。千葉に育つ。 ‘86年、毎日童話新人賞を受賞し、作家活動に入る。2005(平成17)年、『楽園の鳥』で泉鏡花文学賞を受賞。’06年、奈良に移主し、’07年より’16年まで、奈良少年刑務所で「社会涵養プログラム」の講師を担当。児童文学からノンフィクションまで幅広い著作がある。著書に絵本『エルトゥールル号の遭難』(絵・磯良一)ほか、『空が青いから白をえらんだのです』(編者)、『あふれでたのはやさしさだった』、『なっちゃんの花園』など。 協力:新潮社 Book Bang編集部 Book Bang編集部 新潮社
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