トランプ前大統領の有罪評決、有権者はどう受け止めたか
サム・カブラル、アナ・ファグイ、BBCニュース ドナルド・トランプ前米大統領が「不倫口止め料」の支払いをめぐって業務記録に虚偽記載をしたとして罪に問われた裁判で、ニューヨーク州地裁の陪審団は5月30日、34件の罪状すべてについて有罪とする評決を出した。 アメリカの大統領経験者が刑事裁判で有罪とされたのは初めてのことだ。今回の評決は、11月に予定されている大統領選にどのような影響を与えるのだろうか。 世論調査では、今年11月のジョー・バイデン大統領との接戦を前に、一部の有権者が考えを変える可能性が示唆されている。 BBCは、無党派層の有権者や、前大統領を支持するか迷っているという共和党支持者に話を聞いた。 BBCはこの人たちに、前大統領に有罪評決が出た後に話を聞き、自分の投票に影響するかを尋ねた。まずは、どうすべきか明らかに悩んでいる有権者から紹介する(文中一部敬称略)。 これまでずっと共和党を支持してきたというサリヴァンさんは、2016年と2020年にはトランプ氏への投票をためらったという。そして結果的に、今回の判決が決定的な瞬間だった。 「私は熱烈なトランプ支持者ではないし、弁護士でもありません。でも、自分が読んだことに基づくと、非常に不自然な裁判だったと思います。陪審員は当然の結論に誘導されたような気がします。判事には偏見があったと思う。私にとっては、トランプを箝口令(かんこうれい)で封じ込めたことが、特に際立っていた」 「けれどもこれほど法的にあいまいな立場で、そして有罪評決が出た今、(トランプが)どうやって前に進めるのか分かりません。でも、もう一つの選択肢はジョー・バイデンで、それは私にとっても、他の人にとっても受け入れられない選択です」 「私はトランプに傾いていたし、おそらく再び彼を支持することになる。バイデンの政策や振る舞いを見ていると、彼に長く仕事をする体力や能力があるとは思えない。国境は大きく開いてしまったし、経済も最悪だ」 「トランプは報復しようとする。そう思います。アメリカにとって最悪の日です。私たちはルビコン川を渡ってしまった。トランプが勝てば、大勢を懲らしめ始めるでしょう」 (サリヴァンさんはここでいったん通話を切り、10分後にかけなおしてきた) 「重罪で有罪となった人を大統領として支持するなんて、まったくできません。この状況を変えるには、トランプが控訴して勝利するしかない。でも、バイデンには絶対に投票しません」 ラスクさんは独自の考えを持つ共和党支持者で、2020年の大統領選は不正だという前大統領の虚偽の主張を支持していない。 「この裁判は政治的な動機によるものです。トランプに容疑がかけられた時にそれが明らかになったと思います。このタイミングは大統領選の邪魔になる気がしたし、判事は終始、偏っていたと思います」 「陪審員が納得するのに十分な証拠があったし、誰も法を超える存在ではないけれど、システム自体が偏っています。ホワイトハウスからの機密文書の持ち出しについて、(捜査当局が)どのようにバイデンとトランプを扱ったのかを見れば、この国の司法が友人扱いして守るのは、特定の人だけだと、アメリカ人は理解しました」 「今回の裁判で、11月の大統領選の私の票が揺らぐことはありません。私は今年、(独立候補の)ロバート・ケネディ―・ジュニアを支持します。二つの悪のうち、ましな方に投票することにうんざりしているからです。アメリカ国民は、最高権力者にふさわしい候補者が現れるまで、まったく悪くない候補者への投票を強いられる必要があります」 イギリスとアメリカの二重国籍を持つゴッツさんは、2016年に「物事にちょっと揺さぶりをかけ」ようと、トランプ氏に投票した。しかし2020年には、前大統領に背を向けた。 「こんなことになるなんて驚きです。私の妻はニューヨークにいるのですが、外に出てみたら、ワールドカップのようにみんなが歓声をあげていたと言っていました」 「なぜ驚いたかというと、(前大統領の元顧問弁護士マイケル・)コーエンが証言台に立ったとき、まるでぼろぼろに見えたからです。重要な証人が有罪判決を受けた嘘つきだと思うと、十分な証拠がないと思った。だから、疑いがわずかにでも残る限り、トランプは有罪にならないだろうと思っていました」 「前大統領の裁判が公正ではなかったとか、そう言っているわけではないです。でも、どこで裁判が行われたかが大きく影響しました。アメリカの他の場所では、裁判にはならなかったでしょう。民主党と共和党の間にある、この国の深い二極化を示すものでした。民主党と共和党は、あらゆる面で大きくかけ離れています」 「正直なところ、11月の大統領選ではトランプが勝つとまだ思います。この評決が何かを変えたか、わかりません。私たちは、悪魔と深い海の板挟みです。世界で最も権力のある仕事に就くには明らかに年を取りすぎている大統領と、重罪で有罪となった男の二者択一です」 「自分はどうするか……自分は投票しないと思います」 ルイスさんは昨年共和党を離党したが、今でもトランプ前大統領を大いに支持している。 「数十億ドルのビジネスを経営しているトランプが、個人弁護士への支払いの方法で有罪となりました。マイケル・コーエンや(口止め料を受け取った不倫相手で元ポルノ映画俳優)ストーミー・ダニエルズといった、信頼できない人々の証言によって」 「コーエンは雇用主から数千ドルを盗み、議会で偽証しました。今回の裁判でも、証言台でうその証言をしたと私は思います。ダニエルズは1度だけでなく、何度も話を変えました」 「アメリカは今日またしても、新たなどん底に突き落とされました。この裁判は、私たちの司法制度をあざ笑っているし、民主党寄りの判事を使った見せかけの裁判で、政治家が政敵を追い詰めることを許している時点で、私たちにはもはや公正な選挙制度がないことを示しています」 「この評決によって、私は11月に(なおさらトランプに)投票しようと思いました。エリート左派がここまでして、彼の大統領選出馬を阻止しようとするなら。それから、共和党のエリート指導部がほとんどまともに彼を支持しないなら。この二つのことを合わせればそれはつまり、私たち一般人にとっては、おそらく彼が一番良い候補者だということになります」 クレイマーさんは自分を「常識的な中道派」だと言う。11月の大統領選で指示するべきは誰なのか、まだ迷っている。 「この評決はアメリカ史に残るものです。立場や影響力に関わらず、法の上に立つ者などいないと示しています」 「裁判は、適正手続きを踏んで行われました。陪審員は全会一致で評決に至りました。司法手続きは細かく徹底して行われ、偏りがなかった。まさにこうあるべきという形でした」 「しかし一歩引いてみると、説明責任が重要な一方で、告発のタイミングとその性質は、大きい政治的課題と一致しているようです。評決に反対する人々は、司法制度を信じていません。多くのトランプ支持者はこれから、その道を行くんでしょう」 「トランプは現時点で、アメリカで起きている分裂の大半を突き動かしています。その支持基盤はますます強固になり、左派をさらに左派に追いやっている。つまり、分裂は拡大するばかりで、この国で大人になるのがますます怖くなっています」 「この評決で、自分がどう投票するのかは変わりませんが、投票したいという気持ちは強くなりました。民主的プロセスに参加する重要性は、このような瞬間に強調されるものです」 (英語記事 'Twice I backed Trump but no more' - voters split on verdict)
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