「お客さまは神様でない」 カスハラに「ノー」 年末年始へ鉄道各社が対策強化
顧客らが従業員に理不尽な要求を強いるカスタマーハラスメント(カスハラ)。宴会が重なる年末年始は、鉄道業界が身構えるシーズンだ。暴行や脅迫まがいの行為も散見され、「お客さまは神様でない」と鉄道各社は社員を守る対策に乗り出した。 【写真で見る】カスハラ対策を描いたポスターも掲示 「終電ですよ。大丈夫ですか?」。東急電鉄(東京都)のある駅員が駅ホームのベンチで熟睡していた男性を起こそうとすると、「怒鳴るな」。しまいに「けんか売ってるのか」と殴りかかられた。 忘年会と新年会が続く年末年始は、鉄道業界にとって正念場だ。東急によると、酔いつぶれて駅構内や車内で寝込んでしまう乗客が増える時期。置引や痴漢の被害、座席の清掃などに加え、近年の悩みの種がそうしたカスハラ対応だ。 酔客を起こそうとした駅員が殴られたり、暴言を吐かれたりするなど見境がなくなっている。この時期は穏当なトラブル対応と、電車を遅延させまいとする重責で駅員の負担が一層強まる。 駅員がスマートフォンで無断で撮影され、交流サイト(SNS)で拡散され“炎上”するリスクもある。駅員に「激高」されたとする動画がSNSで拡散され、物議を醸したことも過去にあった。JR東日本(東京都)のある社員は「乗客に繰り返し丁寧に説明しても理解してもらえず、対応に苦慮している」と打ち明ける。 東急が2023年度に実施した従業員の意識調査によると、直近1年間で「カスハラを受けた」「職場で見聞きした」と答えたのは4人に1人に上った。カスハラに傷つき、駅業務から配置換えを希望する社員もいるという。 そこで東急は今年8月、カスハラに特化した方針を策定。度を超したクレームや要求を受けた場合、警察や弁護士に相談し、「厳正に対処する」と決めた。対策マニュアルの作成や現場監督者ら向けの研修も検討している。 効果は早速表れている。乗車券の領収書のただし書きについて、「ばかか」と執拗(しつよう)にとがめ立てた乗客に「警察に通報します」と通告すると、早々に立ち去ったという。ある駅員は「従来は謝罪するのが当たり前だったが、許されない行為にはノーと言うべきだ。現場の認識が変わり始めている」と明かす。 同様に対策を打ち出した小田急電鉄(東京都)と京浜急行電鉄(横浜市西区)も「社員の安心感が高まった」「これまでは現場で処理していたが、対応の相談が寄せられるようになった。良い傾向」と社内で好評だ。 10月に策定した相模鉄道(同)も「カスハラは鉄道業界全体の課題」と受け止める。人手不足下で離職防止にも有効という。東急広報CS課の矢澤史郎課長は「カスハラ対策は社員を守り、サービスを維持するため」と理解を求めている。
神奈川新聞社