焼き物の町が転出超過から転入超過へ 「空き家に灯をともし、移住者の未来照らしたい」と語るNPO法人代表理事の思い
◆佐賀・有田町の佐々木元康さん
佐賀県有田町の地域おこし協力隊員として2015年9月に着任。町から空き家の活用や移住促進、中心部の内山地区の活性化、情報発信を求められた。「空き家対策というミッションだったが、町も漠然とした問題意識だけで当時把握していた空き家は2軒のみ。具体的な対策が示されることもなく、だからこそ自由に行動できたのかも」。戸惑いながらも活動が始まった。 有田町への「高校留学」を検討している全国の中学生を連れて、内山地区の古い町並みを案内する佐々木元康さん(右) 地元の不動産業者に声をかけ、周辺の空き家物件ツアーを企画した。その回数は現在まで約70回に及ぶ。JR上有田駅近くの陶磁器販売店2階(約100平方メートル)を、単身者や若い世代をターゲットにしたシェアハウスにしようと提案。改装費は店と折半することになり、節約のために自らDIY(日曜大工)で作業を進めた。 告知や活動の様子は、当時利用が広がっていたフェイスブックなどのSNSを積極的に活用した。「都会で暮らし、漠然と現状に満足できない、自分と同じような世代に、『何かおもしろそう』と興味を持ってもらえた」と振り返る。 完成したシェアハウスは4部屋。アーティストや窯元で働く女性、佐賀大学芸術地域デザイン学部有田キャンパスの学生など、5年間で計11人が入居した。続いて同じ建物内にアトリエ(制作スペース)の整備を企画し、資金集めのクラウドファンディングを呼びかけたところ、約100人が協力した。 「見えてきたのは町外の人たちを引きつける有田の力。有田焼の高度な技や歴史を担う人たち、大学で芸術と向き合う学生もいる。有田に関わる人、元気でおもしろい人たちをつなぐことが自分の役割だと感じた」と感触を語る。 地域おこし協力隊の任期は3年。終了直前の18年8月、同じ課題に取り組んでいた協力隊の後輩たちとNPO法人「灯(とも)す屋」を立ち上げた。名前には「暗くなった空き家に灯をともし、移住者の未来を明るく照らしたい」との思いを込めた。店が並ぶ内山地区に仲間入りする意味から商いを連想させる「屋」を付けた。 当初の目的でも成果が表れた。22年の町への転入者数は561人となり、転出者の560人を上回った。協力隊1年目の16年は97人の転出超過。その後も21年まで57~158人の転出超過が続いていた。 「(転入超過は)たった1人、されど1人。自分の活動との因果関係もはっきりとはしなくても、有田に興味を持つ人が増えたと前向きに受け止めている」と笑顔を見せる。 NPOの取り組みは現在、内山地区の歴史ある町並みを歩きながら手作り雑貨の購入やアート展示、ワークショップを楽しむイベント「うちやま百貨店」の開催▽ヒット商品「ちゃわん最中」に代表される地域の新しい価値の創出▽ふるさと納税制度を活用した地域の事業者支援-など多岐にわたる。 22年には古民家2軒を拠点にした「灯すラボ」プロジェクトを立ち上げた。実験室Aは地域外の人が有田の魅力を感じるために滞在し、リモートで仕事にも対応できる「コリビングスペース」として整備。実験室Bは住民らが気軽に利用でき、放課後は地元児童の受け入れなども行っている。 取り組みすべてに共通するのが「おもしろい未来をつくろう」「ゴキゲンな仲間をつくろう」という思いだ。コロナ禍が収まり、観光客の姿が戻ってきた内山地区。個性的な雑貨店や飲食店の出店も続く。 「この数年、自分が果たせた役割は地域おこしや人の交流などの『ハードルを下げた』こと。いろんなジャンルの人が増え、若い世代が主体的に動く場も増えた」。なんだか有田がおもしろい。その流れはまだまだ続きそうだ。 (糸山信)