【解説】V長崎の2024年リーグ戦 守備強化で失点減、新スタジアムでJ1昇格を
サッカーJ2のV・ファーレン長崎は、2024年シーズンのリーグ戦を21勝12分け5敗(勝ち点75)の3位で終えた。J1自動昇格には惜しくも届かなかったが、3~6位が最後の昇格切符を懸けて戦うプレーオフ(PO)を残している。序盤から最終節まで自動昇格争いを繰り広げ、リーグ戦を5連勝で締めくくった今季。10月には新本拠地のピーススタジアムが開業するなど、サポーターを沸かせ続けている。 ◆22戦負けなし クラブは昨年末、カリーレ前監督の二重契約問題で慌ただしく動いた。前監督がチームに戻る可能性は低く、指揮官不在のまま開幕を迎える最悪の事態を回避するため、複数の監督候補と面談。年が明けた1月5日、「長崎への思いが一番熱かった」(竹村栄哉テクニカルダイレクター)として、下平隆宏氏をヘッドコーチとして迎え、開幕前の2月15日に監督に昇格させた。 下平監督が最初に着手したのは守備の組織化。22、23年シーズンにJ2大分の監督として対戦していた際、「攻撃力はJ2屈指だが、守備が課題」と見ていた。当初は自身が志向する4-3-3のハイプレスで強化を進める考えを持っていた。 しかし、1月末の沖縄キャンプを前に、4-4-2のゾーンディフェンスを採用しているV長崎U-18と試合をして方針を転換した。「(V長崎のアカデミーダイレクターやトップチーム監督などを務めた)松田浩さんが残したクラブの個性を生かした方がいい」と、自分のスタイルに固執せず、柔軟に対応。その守備戦術を、アカデミーの監督時代に実践していた村上佑介コーチが主導して再構築を図った。 第3節清水戦で下平体制のリーグ戦初勝利を挙げると、そこからJ2歴代2番目に長い22戦無敗を記録。このうち9試合が無失点だった。今季全試合に先発出場した米田隼也は「監督がどういう守備をして、攻撃に転じたいか。その理論はわかりやすい。いい立ち位置からコンパクトな守備ができている」と手応えを口にしていた。夏場は7戦未勝利と失速してしまったが、前線の先発を守備力が高いマテウス・ジェズスと名倉巧に変更。この起用が奏功して終盤戦で見事に立て直した。 ◆屈指の攻撃力 「いい守備ができているからこそ、いい攻撃ができる」。指揮官の言葉通り、安定した守備が、もともと備えていたリーグ屈指の攻撃力を引き出した。チーム数減少で昨季より4試合少ないにもかかわらず、総得点はクラブ史上最多の74で20チーム中トップ。総失点は昨季の56から39に減った。アシスト数、シュート決定率、パス成功率、ドリブル回数、ラストパス本数など攻撃に関する数字は軒並みリーグ上位だった。 中でも外国人4選手の「個の力」は驚異的だった。マテウスはリーグ2位タイとなる18得点を挙げ、エジガルジュニオ、マルコス・ギリェルメ、フアンマ・デルガドもそろって2桁得点。局面を個で打開し、ゴール、アシストを量産した。笠柳翼や増山朝陽らのドリブル突破、秋野央樹、田中隼人の展開力など日本人選手の特長もうまくかみ合った。 ◆最高の瞬間へ 今季は11月10日の最終節から12月1日のPO準決勝まで3週間の準備期間が設けられた。「そのままの勢いで行きたかった」「心身ともに疲労は極限だった。リフレッシュできて良かった」など選手の反応はさまざまだ。チームは当初、キャンプを実施する考えもあったが、これまでと変えずに諫早市サッカー場で練習を再開している。試合勘が鈍らないようにJクラブと非公開の練習試合を予定している。 18年のJ1初昇格から1年で再びJ2に戻って以降、コロナ禍でPOが実施されなかった20年は3位、21年は4位と悔しい時期を過ごしてきた。ピースタが舞台になるPOを、あと二つ勝ち抜けば2度目のJ1昇格を手にすることができる。V長崎には確かなチーム力に加え、勢いもある。最高のスタジアムで、最高の瞬間を迎えたい。