<検証>自民党総裁選候補の9人の経済政策、日本経済を救う尖ったアイデアは洗練されるのか
社会保障改革
社会保障費は国債費を除いた一般会計歳出の44%にも及ぶのだから、これは経済政策、少なくとも財政政策そのものである。 小林氏は、給付か負担かではない「第三の道」を標榜し、将来に安心と活力をもたらす社会保障制度改革と若者の手取り増大。石破氏は、医療・年金・子育て・介護など全般の見直しを通じた生産性と所得の向上。林氏は、不安解消、「ウェルビーイング向上社会」の実現。茂木氏は、社会保障分野にデジタルを完全導入、高所得者に相応の負担をお願いする一方、現役の低所得者層、子育て世帯の負担は軽減、「年齢区分から負担能力」を重視。加藤氏は、子どもの給食費と医療費に加え、出産費の負担をなくす「3つのゼロ」を掲げる。上川氏は、「誰一人、取り残さない社会」を掲げ、子育て世代の負担軽減を訴えた。
いずれの候補者の主張も似ているような気がする。社会保障制度が、若者から高齢者への所得再分配となっている状況を変え、年齢によらず高齢の高所得者には負担を求めるということのようだ。 これ自体は、すでに少しずつ行われてきたことでもある。最近の子育て支援の拡充も、社会保障給付を高齢者にだけでなく、働く世代にも行うという動きである。
年末調整廃止論
筆者が興味深く思ったのは、河野デジタル相の、年末調整廃止論だ。「最終的に年末調整をやめる。すべての確定申告が自動で入力され、ボタンを押せば申告が終わる」 行政と民間データの連携により、ピンポイントのプッシュ型の給付金支援などが可能になると説明した。 徴税費用とは税務署の費用だけではなく、本来、税金を取られる方の費用も含んでいる。 年末調整を会社がすれば税務署の手間が省けるが、会社の手間はかかっている。本当にデジタル化できれば、個人も会社も税務署も手間が省けるだろう。
候補者9人の意義
9人の候補者の主張を理解し、論評するのは正直なところ大変だが、9人立候補したからこそ、解雇規制の緩和、年末調整の廃止のような尖ったアイデアが現実的な政策論として登場してきたのだろう。解雇規制の緩和は、解雇の金銭的補償、退職金税制の改善などと一緒であれば、実現する可能性がある。 尖ったアイデアを丸くするのではなくて議論によって洗練して欲しい。年末調整の廃止は、現在の政府のデジタル能力では不可能と思うが、そこが解決されれば、各自が確定申告することも可能だろう。 国民が納税者としての自覚を高めることが健全な政治のために必要だ。「代表なくして課税なし」というスローガンからアメリカ独立革命と民主主義が始まったのだ。
原田 泰