菅田将暉が演じた転売屋は「資本主義の象徴」 黒沢清監督がキャラクター誕生秘話明かす
そんな吉井の曖昧さを示すのが、冒頭で吉井が医療機器をネットで転売し、その売れ行きを見守るシーン。吉井は、本来40万円の機器を3000円で買いたたき、それを20万円で売る。PCから距離を置き、固唾をのんで売れ行きを眺めていた吉井だが、30台分が瞬く間に完売。吉井はほっとしたかのようにため息をつく。
「例えば、吉井が売れた瞬間に『やったー』って喜んだらわかりやすいんですけど、半分は『売れたけど、この先俺はこれを続けて大丈夫なのか』という不安もある。そういったふうに彼は終始曖昧な反応をしていくのですが、それが普通ということだろうと。そんな彼が最終的には殺すか殺されるかという曖昧では済まされないところまで行ってしまう。もしかしたら娯楽映画の主人公としてはとっつきにくい、もうちょっと喜怒哀楽がはっきりした方がいいと思われる方もいるかもしれませんが、僕が考えるリアルを貫くことにしました。どこまでもどっちつかず。悪いことはしてないけれども、うまくやって儲けようとしている。でも、誰にだってそういうところはあると思うんですよ。そんな人物像を菅田さんが完璧に理解して、いい人とも悪い人ともつかない微妙なところを本当にうまく演じてくれたと思っております」
「楽をして儲けたい」吉井は、勤務していたクリーニング工場を辞めてとうとう転売業に専念することになるが、「生活を変えたい。お金をもっと使えるようになりたい」とは思っていても、それで何かを成し遂げようとする意志はない。そんな吉井は「資本主義の象徴」でもあるという。 「企業あるいは企業のトップの人が、上げた利益で何をしようとしているのかというと、さらに利益を生もうとしているわけですよ。利益を生んで何か買おうとか、自分の夢を果たそうとかいうことではなく、利益を増やすために利益を獲得しようとしている。それが言ってみれば資本主義ということですよね。それで社会はだんだん豊かになっていっているという幻想があるわけですけど、そういった意味では吉井も現代の人間としてシンボリックであり、現代の資本主義そのままに生きている男という風に設定しました」