就活時期の「繰り下げ」で、企業と学生はどうなる? 常見陽平(評論家)
「繰り下げ」についての受け止め方、そして対応はどうだろうか。 文化放送キャリアパートナーズの調査によると、「繰り下げ」を定めた「採用選考の指針」により、採用・就職環境はよくなると評価している企業は4.4%で、どちらともいえない48.6%、よくならない47.0%となっている。このような調査は、時期、対象により結果が大きく変わるのだが、否定的な意見が多数派だと言っていいだろう。 3月の採用広報活動の解禁については、73.6%の企業が、8月の選考解禁は63.7%が「遵守する」とそれぞれ答えている。一方、「遵守しない」がそれぞれ2.8%、6.5%、「他社の動きを見て判断する」が22.7%、27.4%となっている。「遵守する」としても、現状では大学4年生の4月1日が選考開始ではなく、この日に内々定を出すという行為が行われているように、8月1日は内々定を出す日となり、それ以前に水面下での選考や、事実上の内々定を出すことを行うのではないかという懸念がある。「繰り下げ」に合わせて、盛り上がりを見せるのがインターンシップだが、そこには、企業側の早期接触、囲い込みの意図が感じられる。 肝心の学生はどうか。有名大学の学生を中心に、一定の層がインターンシップなどに参加している。意欲的な学生は、夏休みに数社ものインターンシップをハシゴしているが、これはほんの一部。大部分の普通の学生は、夏休みにはまだ活動さえしていない状態である。大学教職員にヒアリングしても、就職ガイダンスなどへの参加率は大学によって差があり、同じ偏差値レベルの大学でも様子は異なる。
筆者は、就活時期の繰り下げを、大きな社会的な文脈で捉えることも必要だと考える。大手企業と有名大学という国内トップ同士の出会いにとっては、「繰り下げ」は利点も多い。就活は自由競争を装った集団間競争であり、学生の階層化、分断化がますます進むとも言える。また、「繰り下げ」により、大学の存在意義、価値が厳しく問われるだろう。教育は充実したのか。卒業生の進路を確保できるのか、と。また、採用活動という企業活動、就活という将来を選ぶ活動をルールで縛るのが良いのかという議論も盛り上がりそうだ。すでに経済団体では次のルールの検討が始まっていると噂する大学教職員もいる。このように、「繰り下げ」は単に就活だけの問題ではない。企業活動、大学と学生生活のあり方についての問題提起でもある。2016年度の採用活動の丁寧な検証が必要だ。 いずれにせよ、「繰り下げ」就職活動は、学生と企業が今まで以上に、表(オモテ)のルールと実態の乖離を見据えながら臨むものになるだろう。 ------------ 常見陽平(つねみ ようへい) 評論家。北海道札幌市出身。一橋大学商学部卒業。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。リクルート、玩具メーカー、コンサルティング会社を経てフリーに。雇用・労働、キャリア、若者論などをテーマに執筆、講演に没頭中。2015年4月 千葉商科大学に新設される国際教養学部の専任講師に就任予定。『リクルートという幻想』など著書多数。