就活時期の「繰り下げ」で、企業と学生はどうなる? 常見陽平(評論家)
2016年度の新卒採用から就活時期が繰り下げになる。2015年度までは、大学3年生の12月1日に採用広報活動(就職ナビなどによる企業情報の発信、会社説明会の実施などを指す)が開始され、大学4年生の4月1日に採用選考活動(面接)などが行われ、10月1日に内定式というスケジュールだった。これが2016年度採用から、つまり現在の大学3年生より、採用広報活動のスタートが大学3年生の3月1日、選考活動スタートが大学4年生の8月1日となる。 「繰り下げ」に関しては、以前から大学教職員より待望論が出ていたし、2010年代に入ったころから総合商社などの業界内団体である日本貿易会が提案していた。2013年の3月に政府の若者・女性フォーラムで議論され、4月に安倍晋三首相が経済団体首脳に要請。彼らが容認する姿勢を見せ、実現に至った。これに伴い、経団連の「採用選考に関する企業の倫理憲章」は「採用選考に関する指針」というものに変更となった(なお、「就活時期の後ろ倒し」という表現がメディアで使われることがあるが、これは好ましくない日本語表現とされている。「繰り下げ」が正しい表現である)。 もともと、日本の就活は、時期とルールをめぐる論争、試行錯誤を繰り返してきた。1920年代から、学業を阻害しない時期の議論が行われ、ルールや申し合わせを決めていたのだが、ルールを破る企業が現れ、青田買いが問題となってきた。ここ数年では、2013年度採用から、採用広報活動の開始時期が大学3年生の10月から12月に繰り下げになったが、今回の変更はこの十数年の変更の中では最も大きなものだと言える。
ただ、実効性については疑問も残る。経団連の「倫理憲章」も、今後の「指針」にも、罰則規定がない。経団連に加盟していない企業は、就職ナビサイトのオープン時期や合同説明会の実施時期などがこの申し合わせに準ずるとはいえ、選考や内定を出す時期などを自由に設定することができる。特に、ベンチャー企業や外資系企業の一部は、以前から早期のインターンシップ参加者に内定を出してきた。これらの企業と、経団連会員企業の採用ターゲットはイコールではないが、ルールの徹底という点で、いつも問題とされる部分である。 懸念点もある。企業側としては、就活が学業を阻害するという批判をかわすことができるし、学生が留学など多様な経験を積むことができるというメリットがあるが、入社式、新人研修など企業の年間行事との兼ね合い、本当にルールを遵守するのかという不安など、デメリットも大きい。人気企業以外の企業に学生が目を向けるタイミングが遅くなるのではないかという懸念もある。 学生にとっては、特に理系学生の研究を阻害するのではないか、卒業論文のタイミングと重なるなどの問題も指摘される。また、学生が就活をスタートした時期に、すでに活動を終えた先輩が卒業しているので、わからないことを質問することができない。大学関係者にとっては、就職関連のイベントと大学の年間行事との兼ね合いをどうするかという問題がある。大学4年生で、卒業前に内定がない学生のサポートをどうするかも課題だ。