「値上げラッシュ」に賃金上昇追いつかず 「物価高抑制や安定雇用を」切実な声 静岡県【衆院選】
物価の高騰が静岡県民の暮らしを直撃している。生活に欠かせない食料品や耐久消費財など幅広い品目や、公共料金を含む各種のサービスが毎月のように値上げ。負担増に耐える消費者からは、急激な物価高の抑制や、十分な収入が得られる安定した雇用の実現を求める切実な声が上がる。 「何を買うかシビアになってしまう」。10月の平日、焼津市のスーパー富士屋焼津東名店。米の棚の前で、買い物中のパート女性(60)=藤枝市=がため息をついた。多くの店で新米は5キロで3千円を超え、昨年より格段に高い。米だけではない。「輸入品やガソリンの価格も上がっている。もう少し円高になってほしいくらい」。最近は菓子などの嗜好(しこう)品を我慢している。 静岡県がまとめた静岡、浜松両政令市の8月の消費者物価指数(生鮮食品を含む総合)は、2020年を100として静岡市が108・5、浜松市が110・4。いずれも前年同月比で3・4%上昇した。静岡市は34カ月、浜松市は36カ月連続で前年同月を上回った。 長く続く物価の上昇に、賃金上昇は追いついていない。毎月勤労統計調査によると、7月時点の静岡県の名目賃金指数(従業員5人以上、定期給与)は19カ月連続で前年同月を上回ったが、物価変動を考慮した実質賃金は2カ月連続のマイナスになった。 経済的に困窮している場合はさらに厳しい。浜松市中央区の男性(52)は9月に介護の職を失った。市の事業として生活困窮者支援を行う「市生活自立相談支援センターつながり」を頼り、住居などの支援を受けて就職活動に取り組む。1日の食費に限りがある中で、相次ぐ食品値上げは痛い。支援は原則3カ月で終わるため早く次の仕事を見つけたいが、「年齢が高く、目に障害があるため働き口は本当に少ない」といい、「どうにもならなくなる前に生活を立て直したり、ハンディがあっても安定した仕事に就いたりできる支援があればありがたい」と望む。 衆院選では、物価高対策として低所得者への給付金を挙げる政党もある。ファイナンシャルプランナーの資格を持ち、ボランティアで生活困窮者の家計相談に乗る山崎栞里さん(33)=焼津市=は「給付金の効果は一時的。根本的には職に就けることが重要」と感じている。その上で「困窮者の中には働き方に制約もある人が多く、そのために無職になりがち。制約の中でも働いて収入を得ることを可能にし、不足分を公的支援で補うような、柔軟な仕組みをつくる必要があるのでは」と指摘する。 〈メモ〉帝国データバンクの食品主要195社価格改定動向調査によると、10月には食品2911品目が値上げした。年間を通じては1万2401品目が値上げ予定。品目数は2022年が2万5768、23年が3万2396と「値上げラッシュ」が続く。郵便料金も10月、消費増税を除くと30年ぶりに引き上げられた。近年は県内の路線バスや鉄道、タクシーの運賃値上げも相次ぐ。原材料高や物流費、人件費の上昇が価格転嫁されているのが要因だ。一方、静岡県の最低賃金は10月から時給1034円となり、初めて千円を超えたものの、「賃上げが物価上昇に追いついていない」との声は強い。
静岡新聞社