周期は約1時間 観測史上最も自転が遅い中性子星「ASKAP 1935+2148」を発見
■自転周期が1時間に迫る中性子星を発見!?
今回、Caleb氏を筆頭著者とする国際研究チームは、オーストラリアに設置された電波望遠鏡「ASKAP」を使用した観測を行っていました。当初この観測は、全く無関係の天文現象であるガンマ線バースト「GRB 221009A」の性質を探るために行われたものでした。 この観測中に、研究チームは偶然にも興味深い電波源を発見しました。その電波源は地球から見て「こぎつね座」の方向に約1万6000光年離れた位置にあります。見た目の位置(天球上での座標)から「ASKAP 1935+2148」と命名されたこの電波源は、南アフリカ共和国に設置された電波望遠鏡「MeerKAT」の追加観測によって、電波の性質が周期的に変化している電波源であることが1万分の1以下の誤差という正確さで判明しました。 驚くべきはその周期の長さで、MeerKATの観測により、電波の性質が変化する周期は約53.8分(3225.313±0.002秒)であると測定されました。ASKAP 1935+2148を中性子星と仮定した場合、前述の通り約20分周期でさえエネルギー不足で電波を放出しないと予測されていることを考えれば、電波が検出されること自体が驚きであると言えます。 また、MeerKATの観測によって、ASKAP 1935+2148から放出される電波は大きく3つに分かれることが判明しました。 1. 高度に直線偏光した電波パルス。最も明るく、10~50秒間継続する。 2. 高度に円偏光した電波パルス。強度は上述した直線偏光した電波パルスと比べて約26分の1ほどと暗く、約0.370秒間継続する。 3. 全く電波が観測されない活動静止状態(または急激に電波の放射が止まるクエンチ状態)。 偏光とは、電磁波の振動が特定の方向に揃う性質のことであり、天文学的には強力な磁場の下で生じやすい性質です。また、電波が観測される時期とされない時期は数か月周期でゆっくりと変化することから、天体表面の物理的な性質の変化が電波の放出に関連していると予測されます。電波に強い偏光があることや、活動の停止期間があることは、強力な磁場を持つ中性子星から放出されている電波と性質が一致します。 Caleb氏らはASKAP 1935+2148が中性子星ではない可能性も考察していますが、その可能性は低いと考えています。代替の候補としてあげられているのは、非常に磁場が強い例外的なタイプの「白色矮星」です。白色矮星は太陽と同じくらいの恒星の中心核の名残であり、中性子星よりも低密度で直径も大きくなります。このため、白色矮星は中性子星よりもずっと長い周期で電波を放出することも考えられます。しかし、今回の観測結果を分析したところ、電波の放射源は極めて小さく、白色矮星である可能性を事実上排除する結果となりました。このため、Caleb氏らはASKAP 1935+2148が中性子星である可能性が高いと考えています。