“ポスト長友”として湘南ベルマーレの19歳・杉岡大暉への期待
左利きの左サイドバックが重宝される理由は2つある。まずはキックの質。左サイドからクロスをあげる場面で高低や強弱、カーブなどの変化をつけて、相手ゴール前へ走り込む味方へピンポイントで合わせるには、利き足で蹴ったほうが必然的に精度は高くなる。 次は相手との距離。たとえばドリブルを仕掛ける場合、レフティーは自身の利き足、つまり左タッチライン側にボールを置く。自分の体の横幅分だけ相手との距離が生まれ、ボールを奪われにくくなる。そこにサイズという天性の武器も兼ね備える杉岡は、自身の現在地をこうとらえている。 「自分の長所はビルドアップで縦につけられるところと、ボールを前へ運んでいけるところ。左足によるクロスや縦パスも評価してもらっていると思う。ただ、守備のところで世界にも負けないような対人の強さを身につけなきゃいけないし、ファーストタッチも含めて、技術的にもまだまだなので」 J2を戦ったルーキーイヤーは開幕スタメンを射止め、最終的には37試合、3251分間にわたって濃密な経験を積んだ。欠場した5試合はワールドカップを含めた、U-20代表の活動に伴うものだった。 「不動のレギュラーとは思っていないし、そもそもこのチームにはそういう存在が少ない。だからこそ周囲から『アイツがいなきゃ勝てない』と、思われるくらいの存在にならないと」 順風満帆なプロサッカー人生を歩みながらも、現状に対して満足しない杉岡を起用し続けながら、曹監督はもうひとつの武器が搭載されていることに気がついた。選手である以上は、誰でもミスを犯す。杉岡の場合は同じミスを繰り返さない、あるいはミスを引きずらない強靭なメンタルを宿していた。 指揮官からカミナリを落とされたのは、現時点で一度だけ。昨年5月のFC町田ゼルビア戦。両チームともに無得点で迎えた後半終了間際に、失点につながりかねない不必要なファウルを犯した。 「あんなところで、あんな時間帯にファウルをするなんて、自分は二流のディフェンダーだと周囲に言っているようなものだ。この先、ディフェンダーで生きていきたいのならばあり得ない」 試合後のロッカールームに響かせた怒声を、曹監督は杉岡の未来に対する先行投資として位置づけていた。そして、下を向くことも委縮することもなく、指揮官の檄をその後のパフォーマンスに反映させる軌跡を見て、「挫折を味わうまでは放っておこう」と心に決めている。