トランプ政権の誕生はプーチンにとって福音か?有力石油会社3社の統合に透けて見えるロシアの苦境
■ 中国メジャーの協力を期待するロシアの皮算用 ロシアの主力油田は西シベリアにあるが、その枯渇がかねてより懸念されており、東シベリアの開発が急務となっている。一方で、ウクライナとの戦争で米欧の資源メジャーや投資家によるノウハウやマネーの提供は見込み難くなった。ロシアとしては、友好関係にある中国が協力の手を差し伸べる展開に期待したいところである。 中国石油化工集団(Sinopec)や中国石油天然気集団(CNPC)、中国海洋石油集団(CNOOC)といった中国の資源メジャーは着実に成長しており、米欧の資源メジャーにも渡り合えるノウハウを有している。こうした企業がロシアの石油産業に対してノウハウやマネーを提供するにしても、それは中国に実利があると判断される場合だろう。 中国にとっての実利とは、ロシアから安価で安定した石油の供給が実現することに他ならない。それに資すると判断されるプロジェクトなら、中国メジャーもロシアに協力するだろう。しかし、ロシアが石油会社3社を統合する理由が中国やインドに対する価格交渉力を改善させることにあるなら、ロシアと中国の利害は合致しない。 10月22日から24日かけてロシアのカザンで開かれたBRICS首脳会議では、ホストとなったウラジーミル・プーチン大統領の意向から、ロシアと中国が協力して新興国をまとめ上げるかのような演出がなされた。とはいえ、中国は常に実利的である。自らの利益に適うものだと判断しない限り、中国はロシアからの協力要請など受け入れない。
■ トランプ政権の成立はロシアにどう働くのか 米国では年明けからドナルド・トランプ元大統領が再登板する。孤立主義外交を掲げるトランプ元大統領であるため、ジョー・バイデン現大統領のように、米欧が協力してロシアに対する経済制裁を強化する体制は見直される公算が大きい。一方で、トランプ元大統領がロシアに対する制裁を緩和するかは、また別の話となる。 トランプ元大統領は化石燃料の利用に前向きであるため、米国が石油やガスの増産に踏み切ることは間違いない。世界的に脱炭素化の「揺り戻し」が生じれば、米国産の石油やガスが市場を奪われることになりかねないので、産油国もまた増産に転じざるを得ない。そうすれば、供給面から石油やガスの価格に押し下げ圧力がかかるだろう。 この展開だと、現状、ただでさえ国際価格に比べると安いロシア産原油に、さらなる価格下振れ圧力がかかるだろう。あるいは、ディールベースで動くトランプ氏であるため、産油国の盟主であるサウジアラビアと関係が改善し、両国ともに原油の増産に踏み切る展開も予想されるところだ。この場合、ロシアははしごを外されることになる。 いずれにしても、トランプ元大統領の再登板がロシアにとって福音になるとは必ずしも限らない。少なくとも、自らに科された経済制裁が緩むことはない。ゆえに、ロシアは経済へのコントロールを強め、計画経済的な運営をせざるをえない。石油会社3社の統合計画は、そうしたロシアが抱える厳しい現実を物語っていると言えそうだ。 ※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。 【土田陽介(つちだ・ようすけ)】 三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。
土田 陽介