「投票率が上がれば」理想の社会が実現する!? 投票を“義務化”した国で起きた興味深い変化
低投票率の改善だけでは、政治は変わらない可能性も
ただ注意も必要です。オーストリアを対象とした別の研究は義務投票制の導入によって投票率が最大10%ポイントほど上昇することを示す一方で、左派政党の得票率や福祉政策などへの政府支出が増えるというような関係はみられなかったと報告しています。 義務投票制の導入は低収入グループや政治への関心度の低いグループの投票参加を増やしているようですが、これらの投票者はもともと政党などの違いをよくわかっていないために自分たちの望みに沿った投票をしなかったのではと論じています。 同様にペルーを対象とした研究も、罰金額の多い義務投票制のもとでは無効票が増えることを示しています。つまり普段投票に行かない有権者が投票するようになっても、それが左派政党の得票につながらないので選挙結果にも大きな影響を及ぼさない可能性を示しているのです。 これらの研究は、低投票率を改善することは大切だけれどそれだけが目標となるのではなく、意味のある投票選択を可能にする情報提供や制度設計が不可欠であることを示唆しています。
松林哲也