「投票率が上がれば」理想の社会が実現する!? 投票を“義務化”した国で起きた興味深い変化
“投票率上昇”と“左派的政策の実現”に寄与?
罰則規定のある義務投票制の導入や廃止に伴って選挙結果や政策にどのような変化が起きたかを調べた研究を2つみてみましょう。 1つ目はスイスを対象とした研究です。スイス南西部に位置するヴォー州では1924年に国民投票での義務投票制が導入されました(そして1948年に廃止)。 投票しなかった場合、少なくない額の罰金を支払う必要があり、警察がそれを徴収に来ます。スイスの他州で義務投票制がなかった選挙区と比べた場合、ヴォー州の選挙区では義務投票制の導入後に投票率が33%ポイント上昇しました。 さらに、国民投票の対象となった政策案について左派的な立場への支持率(例えば高齢者や障がい者への年金支給に賛成する率)が高まりました。投票率の低い低収入グループなどは一般的に左派的政策(つまり政府による福祉政策や教育政策の拡充)を望むので、義務投票制が導入されることで投票率が上がり、それが左派的政策の実現につながったといえます。 2つ目はオーストラリアを対象とした研究です。オーストラリアの各州では1900年代前半に次々に義務投票制が導入されました。最初に導入したのがクィーンズランド州で1914年、最後に導入したのがサウスオーストラリア州で1941年です。 義務投票制導入の結果、投票率が24%ポイントほど上昇しました。さらに、左派的立場を取る労働党の得票率や議席率も増えました。 そして、義務投票制を導入したオーストラリアと義務投票制のない他国の政策を比較すると、オーストラリアでは義務投票制導入後に年金政策への支出が増えていることがわかりました。年金政策の拡充も左派的政策とみなせるので、義務投票制が導入されることで投票率の低い低収入グループが望む政策が実現されたということができます。 これら2つの事例は、義務投票制が導入されるとあまり投票に行かない低収入グループの有権者などが投票するようになるので投票率が上がること、その結果として低収入グループの有権者が望む左派的政策が実現されやすくなることを示唆しています。日本でも義務投票制が導入されれば同様のことが起きるかもしれません。