「あなたには子どもがいますか?」「もし自分だったらと想像できますか?」...ロシア当局に身体拘束されたジャーナリストが捜査員に語った戦争の悲惨さ
「NO WAR 戦争をやめろ、プロパガンダを信じるな」...ウクライナ戦争勃発後モスクワの政府系テレビ局のニュース番組に乱入し、反戦ポスターを掲げたロシア人女性、マリーナ・オフシャンニコワ。その日を境に彼女はロシア当局に徹底的に追い回され、近親者を含む国内多数派からの糾弾の対象となり、危険と隣り合わせの中ジャーナリズムの戦いに身を投じることになった。 【写真】習近平の第一夫人「彭麗媛」(ポン・リーユアン)の美貌とファッション ロシアを代表するテレビ局のニュースディレクターとして何不自由ない生活を送っていた彼女が、人生の全てを投げ出して抗議行動に走った理由は一体何だったのか。 長年政府系メディアでプロパガンダに加担せざるを得なかったオフシャンニコワが目の当たりにしてきたロシアメディアの「リアル」と、決死の国外脱出へ至るその後の戦いを、『2022年のモスクワで、反戦を訴える』(マリーナ・オフシャンニコワ著)より抜粋してお届けする。 『2022年のモスクワで、反戦を訴える』連載第36回 『「ドアをぶった切るぞ」...ロシア当局の強引な家宅捜査で、反戦派ジャーナリストが奪い取られた「かけがえのない宝物」』より続く
押収される機器類
家宅捜索は6時間を超えた。屋根裏部屋の入口を警察官が見つけた。わたしは、あるのは引っ越してきたあとに押し込んでおいた古いガラクタばかりだと言ったが、彼らは屋根裏部屋に這って入った。 旧式のコンピューターを探し出すと、警察官たちは下へおろした。押収した機器類のリストを作ると、捜査官はわたしにクルマに乗るように命じた。 「取調委員会に行きましょう」 「わたしも一緒にいいですか?」おずおずとクリスティーナがきいた。 捜査官が首を縦に振った。 わたしたちは警察車両の後部に乗った。捜査機関の係官がわたしたちの後について、警察車両に飛び乗った。
突然車から降ろされる
「携帯を貸して」クルマがレーニンスキー大通りに入った時、クリスティーナに小声で言った。クリスティーナはそっと押収を逃れたアイフォンをわたしに渡した。わたしは気づかれないように自分のテレグラム・チャンネルを開け、家宅捜索と逮捕についての短いメッセージを書いた。 「素早いですね」携帯から目をそらして黒い目出し帽の過激派対策センターの捜査員が言った。男は常にわたしのSNSをモニターしていたのだ。そしてクリスティーナをわたしと一緒にクルマに乗せたのは間違いだったことを悟った。 「クルマを降りろ」過激派対策センターの男がクリスティーナに命令した。 彼女は従わざるをえなかった。 警察車両は取調委員会の敷地に入った。弁護士がわたしを待っていた。捜査官、過激派対策センターの男、2人の護衛とともにわたしたちは5階に上がった。 「質問に答えたくない時は、憲法第51条を引き合いに出せばいい」ザフヴァトフ弁護士がアドバイスをくれた。 「わかってます。でもソフィア河岸通りで抗議活動をした事実は否定しません」
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