70代父の死「実印押せよ」書類を投げる弟…遺産分割にいらだち募らせ15年の長女、今度は母の死で相続問題再浮上のツラすぎる現実
母親も死去…いよいよ相続手続きが必要に
そして、その母親も昨年亡くなりました。数年前から井上さんは実家へ介護に通っていましたが、2年前よりひとり暮らしがむずかしくなり、介護施設に入所しました。すると弟は、空き家となった実家から「自分が預金を管理する」といって、通帳類を全部持ち出したのです。 井上さんは、さらに弟へ怒りと不信感を募らせました。 母親も父親と同様、遺言書を残しませんでした。そして井上さんは、仲違いをしている弟と2人、いよいよ父親と母親の財産について遺産分割協議をしなければなりません。 父親の財産はすでに自宅だけ、母親は自宅と200万円程度の預金で、母親の財産についても基礎控除4,200万円以内と、相続税の申告は不要です。 2人とも同居しておらず、同等の立場であることから、財産は2分の1ずつ分けるというのが井上さんの希望です。実家も売却して2人で分けるしかありません。 「弟とは直に話ができません。弟との連絡役として、売却をはじめとする遺産の整理の話をまとめてもえませんか?」 これが井上さんの依頼内容でした。
遺産分割の考えは同じでも、確執があり歩み寄れない
亡き母親を介した話ではありますが、じつは、井上さんも弟も「財産は等分に分けること」「実家は売却すること」について異論はなく、考えは同じだといいます。 それなら、当事者間で事務的に進められそうなものですが、現実は簡単ではありません。15年もの間、お互いに譲らず平行線できたため、「弟のいうとおりではイヤ」「姉のというとおりでは気に入らない」という感情があり、いまさら距離が縮まらないのです。 井上さんは打ち合わせのなかで声を強め、 「これはお金の問題じゃありません。15年前の遺産分割協議書のことから、弟に全部詫びさせたいのです!」 といったことがありました。このような気持ちが根底にあるうえ、母親の介護施設入所の際の行動などから、かたくなな気持ちとなっています。 筆者の事務所は井上さんの依頼を受け、この件の窓口となって売却を進めることになりました。 弟に接触したところ、弟は弟で弁護士を立ててきました。つまり、代理人同士の交渉で、ようやく事態が動き始めたのです。