堀米雄斗 メン・オブ・ザ・イヤー・ベストアスリート賞 ──スケートボード道を極めたクールな修行者
絶対に変えないこと
パリ五輪の後、堀米はSNSを通じて、見る人をあっと驚かせ、楽しませるような映像を発信している。東京五輪後と同じような日々になりそうだと本人は言うけれど、悩み抜いた期間に、「成績」と「カルチャー」の両輪を上手にコントロールするコツを掴んだのではないだろうか。 ところで、近年のスケートシーンは日本国内を中心に若手スケーターの台頭が顕著だ。この状況を王者はどう考えているのだろうか。ロスに向けて堀米に聞きたかったことのひとつだ。ティーンエイジャーが大きな大会で結果を残しているが、現在25歳の堀米はロス五輪を29歳で迎えることになる。この競技ではベテランの領域だ。選手としての自分を俯瞰すると、その強みはどこにあると考えているのだろうか。 「若い選手たちの活躍は刺激になります。自分のストロングポイントは負けず嫌いなことと、どんな困難でも諦めないところです。彼らの勢いは肌で感じていますが、まず大事なのは自分がベストを尽くすことかと思っています。ベストパフォーマンスを常に出せるように、メンタルと身体のコンディションをしっかりと整えることを心がけています」 言うまでもないが、ここ一番における集中力の高さは、堀米の最大の武器だ。パリ五輪の大逆転金メダルでそれは実証済みではあるが、メンタルと身体のコンディションを整えるにあたって、心技体の3つはどういうバランスが理想的だと考えているのだろうか。 「心技体の3つはどれも欠かせない要素ですが、もしひとつを選ぶならば、心が大切かと思っています。強いメンタルがあってこそ、どんな状況でも技術を最大限に発揮して、身体のコンディションも維持できると感じているからです。もちろん技術の磨き込みと身体のケアも重要ですが、厳しい大会や緊張する場面で自分を支えてくれるのは、やっぱり心の強さではないでしょうか。そしてこの3つがうまく噛み合ったときに、一番のパフォーマンスが生まれると思います」 前述の通り、パリでは、ノーリーバックサイド270ブラントスライドという、世界で堀米だけが成功させたトリックで勝利を収めた。自分だけのスタイルを貫いたことが、堀米を頂点に導いたということになる。いっぽうで、自分のスタイルに固執することは、成長を妨げる場合もある。堀米は、絶対に変えないことと、柔軟に変化させることを、どのようにバランスさせているのだろうか。 「絶対に変えてはならないのは、自分を信じ、常に自分らしさを大切にすること。新しいものを取り入れるときには、自分の身体やメンタルに無理がないように、慎重に取り組むことを心がけています。成功するかどうかはわからない挑戦でも、信念を持って取り組むことで、自分の成長につながると信じている。これまでもそうやって来ましたから、このスタイルは変わらないと思います」 4年後のロス五輪までにやっておきたい、あるいはクリアしておきたいことを問うと、間髪入れずに、「『スラッシャー・マガジン』のスケーター・オブ・ザ・イヤーを受賞すること」と答えた。 『スラッシャー・マガジン(Thrasher Magazine)』は、1981年にサンフランシスコで創刊されたスケーターのバイブルであり、その年に最も活躍したスケーターを、スケーター・オブ・ザ・イヤー(SOTY)として表彰している。リスペクトに値する活動実績とスケーターとしてのスタイル全般が評価対象。映画のアカデミー賞のような名誉ある賞という位置付けだ。堀米も、東京五輪を制した2021年にファイナリストに残ったものの、受賞は叶わなかった。 「ストリートスケート界では一番名誉なアワードなので、自分にとって大きな目標であり、次のオリンピックまでにこの夢を実現するため、全力で取り組んでいきたい」 オリンピック競技に限ると、2連覇を果たした堀米は絶対王者だ。けれども、ストリートスケートという視点で見ると、まだまだチャレンジャー。堀米雄斗のスケートボード道はまだ道半ば。むしろこれからキャリアの佳境に入るのだ。