楳図かずお先生がホラー版「ドラえもん」を描いた? 未読の人にもすすめたい名作短編
『ねがい』における小学生の男の子と、お願いを叶えてくれる(?)ロボットの関係性がすでに『ドラえもん』的ともいえるのですが、それ以上にシンクロしているのは、『ドラえもん』の最終回のひとつ「さようなら、ドラえもん」です。こちらはドラえもんという存在を必要としていたのび太が、そのドラえもんから「卒業する」感動的なエピソードでした。 その「自分の意思と行動で」「子供時代の友だちから」「卒業をする」ことが、『ねがい』と「さようなら、ドラえもん」ではほぼ一致している、というわけです。ただし、そこで巻き起こる感情は、両者は正反対ともいえるのですが……読み比べてみるのもいいかもしれません。 ●「主観的な思い込み」の後にある恐ろしさ 楳図先生の作品では、「主観的な思い込み」が行きすぎていて狂気的に思えることがあり、その思い込みには当然、他の人間との「認識のズレ」も生まれています。その主観的な思い込みそのものも怖いのですが、さらに「思い込みが覆される」「他の人間のズレていたはずの認識と似てしまう」ことも、また恐怖を(時には感動も)呼び起こすのです。 この『ねがい』では、等は見た目が不気味すぎるモクメを本当の友だちだと思っていたけれど、母親はモクメのことを気味が悪いと思っていて、等もまた母親と同じようにモクメを気味が悪いと思うようになり、その先には……という、やはり楳図先生の作品に通底する恐怖が描かれているのです。 短くかつ強烈な『ねがい』でその作家性を認識したうえで、他の楳図先生の偉大な作品の数々に触れてみるのもいいでしょう。その作品群が、後の多くのクリエイターに影響を与え続けていることも含め、改めて偉大な作家であると思えました。楳図先生のご冥福をお祈りします。
ヒナタカ