1320万円の新型アウディA8は控えめだからイイ!? ベンツやBMWとは異なるフラグシップセダンに迫る
アウディの最上級セダン「A8」のプラグイン・ハイブリッドモデルは、完成度の高い1台だった! 小川フミオがリポートする。 【写真を見る】新型新型A8 60 TFSI eクワトロの内外装(18枚)
本質にこだわった1台
アウディのフラッグシップセダンであるA8にプラグイン・ハイブリッドのTFSI eが設定され、2023年6月から日本発売されている。これが実にイイ! 改良すべきところは改良され、大型セダンとしての熟成感がみごと。クルマ好きに乗ってもらいたい。 A8の発表は2018年。剛性感のかたまりのような車体に、すぐれた操縦性。ひとことで言って、デカいのによく走る。プレミアムセダン好きにはある意味、ベストな組合せだ。アウディの技術の粋を集めたような出来映えには感心させられた。 競合にあたる大型セダンがモデルチェンジを繰り返しているなかで、いまさら、ちょっと古いんじゃないの? と、思うかもしれないが、試乗したA8 60 TFSI eクワトロは、まったく負けていなかった。というか、今、買う価値がある。 外部充電式のプラグイン・ハイブリッドシステム搭載をあらわす“e”の文字を車名に控えめに持つのは、3.0リッターV6エンジンの今回のモデルと、4.0リッターV8のA8 60L TFSI eクワトロの2モデルの展開だ。 ちなみに車体サイズも異なっていて、標準モデルは、3000mmのホイールベースに全長5190mmの車体を載せている。いっぽう、L版のほうは、3130mmのロングホイールベース(標準モデルでも十分長いけど)に5320mmのボディと、立派ななリムジンだ。 今回運転したのは、ドライバーズカーとしても小回り性の高い、3.0リッターV6搭載の標準ホイールベース版であるA8 60 TFSI eクワトロ。システム最大出力340kW、最大トルク700Nmで、全輪駆動のクワトロシステムの組合せだ。 EVモードでは満充電時、最大54km(WLTC)走行可能とされている。ごく低速域からスムーズな加速を可能にするモーター走行が可能だ。そもそも、先述のとおり、太いトルクを持つクルマであるが、モーター走行で、プレミアムクラスの大型セダンとして、より質感が上がった印象すら受けた。 さらに、エンジンにモーターのトルクを上乗せすることで、走行性能の向上ぶりもめざましい。静止から100km/hまでを4.9秒で加速してしまう。実際にドライブすると、ぐんぐん加速していくパワフルな走りは痛快だ。 ハンドリングもたいへんよい。足まわりとステアリングはしっかりとしていて、ハンドルを切ったときのボディの動きは、意外なほどすばやい。もうすこしコンパクトなアウディ車と同等と思えるほどだ。 「アウディスペースフレーム」というアルミニウムを使った堅固でかつしなやかなボディ構造の恩恵も大きい。路面の凹凸はきれいに吸収し、気持ちよい乗り心地をもたらしてくれる。アダプティブエアサスペンションとの組合せも上手だ。 スタイリングも、古びていない。2022年にフェイスリフトを受けたこともあるけれど、ロジカルなデザイン哲学を感じさせるアウディらしく、トレンドにおもねっていないことが、いまも強い存在感になっていると思う。 インテリアの作りもよく、プレミアムクラスにおける、もっとも重要な質感の点において、乗るひとを失望させることはなさそう。ドアの開閉音の重厚さをはじめ、各部の手触り、操作感、音……伝統的な上質感が、現代のデザインとうまくマッチしている。 たしかに、競合ほどデジタル化は進んでいないかもしれない。3Dのナビゲーションとか、呼びかけなしで起動するボイスコントロールとか、複雑なライティングシステムとか、車内でゲームができたりすることはない。 でも、A8をドライブしていると、クルマの本質とは、ドライブの気持ちよさにあると改めて思うのだ。
文・小川フミオ 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)