ブランド性で他を圧倒する「世田谷区」、再開発で注目3駅
個人投資家の資金の運用先として根強い人気を誇る不動産投資。投資指標としては販売価格と賃料から割り出す「利回り」などがありますが、人気エリア、駅近など、さまざまな要因から価格形成されます。 本連載では、不動産専門の国内最大級のデータ会社である東京カンテイの市場調査部執行役員兼上席主任研究員兼東京カンテイマンション図書館館長である井出武さんに、最新のデータを使って行政区別のマンション市況を解説してもらいます。 世田谷区は住宅立地としてのブランド性が高く、多くの高級住宅街や閑静な住宅地を有する行政区であるが、マンション市場におけるここ数年来の大きな流れ、「大規模再開発」や「複合型タワーマンション供給」という大きな流れからやや取り残されている感がある。 もちろんブランド性自体は今なお健在で人気も高いのだが、かえってそのために割高となっている価格が、新たな購入層流入の阻害要因となっている面や、狭い道路がメロンの表面のごとく広がる状況が大規模な面開発に不向きな形になっている面が指摘されている。 ■人気住宅地ゆえ高度利用阻む? 世田谷区や杉並区に狭い道路が多く残っているのは、両区が東京大空襲の大きな戦火から逃れたためであり、これ自体は幸いなことではあったのだが、多くは畑の間に通じた狭い農道であったため、これらがそのまま道路となった経緯による。 また、戦後復興から高度成長期においては人気の居住エリアとして注目が高まり、区の多くが住居系用途地域となっていることが、高度利用を阻む要因となっている。 例外に該当するのは「下北沢」のみである。閑静な住宅地を維持することと、大規模再開発によって新たな人流を生み出して街を活性化させることの両立は、実に難しい。世田谷区はその難問題に直面する代表的な行政区であると考えられる。 世田谷区を通る沿線は8線で、京王線、京王井の頭線、東急世田谷線、小田急小田原線、東急田園都市線、東急大井町線、東急東横線、東急目黒線である。データ数の関係で駅が掲出できた沿線は4線に限られ、このうち京王井の頭線や東急世田谷線ではデータがほぼなく、東急東横線と目黒線はともに世田谷区の東端をかすめるように走っているため採用駅がない。東急東横線には世田谷区は通過するのみで、そもそも駅がない。 ■利回りの高い駅、低い駅 有名な高級住宅街で人気も高い東急大井町線の「等々力」や「上野毛」では表面利回りが築年経過とともにほとんど変化せず、いずれもおおむね3%台と低くなっている。周辺駅と比べても平均坪賃料が高くなっていないが、要因は東急大井町線という直接都心部に乗り入れる沿線ではないことが大きい。 その一方で多くが富裕層の居宅となっており、買って貸す市場ではない点もある。同様の傾向は東急田園都市線沿線でも見られ、人気の住宅地である「駒沢大学」「桜新町」「用賀」は表面利回りがやや高く、4%台の数値も見られるが、それでも価格の割高感は否めない。 これらの駅を見渡すと、京王線「千歳烏山」や東急田園都市線「二子玉川」は利回りが高く見える。「二子玉川」は再開発による地域の盛り上がりが一服したため、相場賃料の上昇が見られるが、再開発が一巡したあとは、高額な物件が少ないため(新築は高額となっているが)優位性が出てきている。京王線は前述の「千歳烏山」しか採用駅がない状態だが、「笹塚」~「仙川」間で「連続立体交差事業」(高架化)を行っており、完了後の開発進展が気になるところだ。 世田谷区でも希少な商業集積のある小田急小田原線「下北沢」と東急田園都市線「三軒茶屋」は、発展性への期待感からか、表面利回りの水準はかなり低い。 ■井出さんの注目の3駅とは? ★★★ 小田急小田原線「下北沢」 表面利回りの低さに関係なく、将来性や再開発の進展とともに注目度No1の駅。演劇の聖地として人気が高く、そもそも集客力があった駅であるが、その魅力がさらに高まることが期待されており投資先としてなお伸びしろがある。小田急小田原線で「新宿」へ、京王井の頭線で「渋谷」へと、鉄道アクセス性は世田谷区の駅では最強と言ってよい。 ★★ 京王線「千歳烏山」 京王線の高架化対象駅であるが、駅前には中規模から小規模のビルや戸建て住宅が建ち並び、すでに開発の余地はないように思える。その分、高架化の効果が期待されるわけだが、今回の駅の中でも利回りが高く、過小評価されている面は否めない。2022年3月から特急停車駅となっている。 ★ 東急田園都市線「三軒茶屋」 遅々として進まないといわれた駅前再開発が進行中である。東急田園都市線と同時に世田谷線が利用可能である。独特の風情に人気があるため、若い人も多く集まる点も投資適性は高い。「渋谷」への絶対的なアクセスの良さと商業性の高さは、「下北沢」ほどではないにしろ、世田谷区の中でも異彩を放つ。 井出 武(いで・たけし)/1964年東京生まれ。1989年マンションの業界団体に入社、以降不動産市場の調査・分析、団体活動に従事。2001年東京カンテイ入社、現在は市場調査部執行役員兼上席主任研究員兼東京カンテイマンション図書館館長。不動産マーケットの調査・研究、原稿執筆、講演業務等を行う。テレビ、ラジオ等に出演多数。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
井出 武