レイヴェイが音楽観を大いに語る ジャズとクラシックの融合から生まれるロマンティシズム
音楽を作るのは「この世界の誰か」のために
―あなたの音楽は印象的なストリングスが添えられていたりアレンジが多彩ですよね。そこも映像的だなって思います。作曲時にアレンジもセットで浮かんできたりしますか? レイヴェイ:うん。私にとって、歌とストリングスは同じくらい大事なもの。作曲時には歌声とチェロを特に意識している。歌声とチェロは補完関係にあるけど、実際のところストリングスに時間を費やしているほうが多いと思う。それにストリングスのアレンジを考えるのはすごく楽しい。プロデューサーのスペンサー(・スチュワート)と一緒に制作していて、彼は映画音楽、私はクラシック音楽のバックグラウンドを持っているから、その中間点を探るのがいつも楽しい。制作は、最初に私がメロディを書いて、そこにいろいろ付け加えてレコーディングして、そこにまた付け加えて……っていう繰り返し。レコーディングの大半はチェロだけなんだけど、まるでオーケストラが演奏してるように聴こえるでしょ? ―たしかに。最新作の『Bewitched』を聴いていると、ピアノの響きの質感や音色が曲ごとにまったく違っていたり、すごく細かな音作りをしているように思いました。そういった響きや質感も作曲時に一緒に浮かんでくるんですか? レイヴェイ:壮大でシネマティックな曲になるか、ボーカルのトーンやストーリーテリングを重視した曲になるかは直感でわかるかな。『Bewitched』は曲それぞれが個性を持っていて、それを生かしたアルバムにしたかった。ミュージシャンとしてのいろんな側面を映し出したいから、似たようなサウンドばかりの曲は作りたくなかったのもある。異なる響きやスタイルがあるにも関わらず、それを歌って作曲してプロデュースしているのは私。その一点ですべては繋がり合っている。どの曲もそれぞれの色を持っているって素敵だと思う。 ―『Bewitched』では、これまでよりも多様なノスタルジックさを参照しているような気がしました。どんな音楽がインスピレーションになっていたんですか? レイヴェイ:ボサノヴァをたくさん聴いていて、特にアストラッド・ジルベルトの『Beach Samba』は大好き。ちょっと風変わりで陽気で、いい意味で洗練されてない。その雰囲気はすごく参考にしている。それに、あの玩具みたいなサウンドも絶対に取り入れたかった。それから、昔のカントリーもよく聴いていたかな。クラシック音楽はもちろん、エラ・フィッツジェラルドにチェット・ベイカー……でも、『Bewitched』の一番のインスピレーション源を挙げるとすれば、やっぱり『Beach Samba』かな。 ―A&M系のポップなボサノヴァってことですか、なるほど。 レイヴェイ:あと、あのアルバムでは、すべて生楽器のサウンドを使いたかった。シンセとか電子楽器は使いたくなかったってこと。これは自分への挑戦でもある。生楽器だけのサウンドで若いオーディエンスを失わずにいられるかってチャレンジ。最近の音楽って、ほとんどがプログラミングされてるでしょ? 私のEPだってそうだった。それは単にオーケストラやミュージシャンに依頼する予算がなかったからなんだけどね(笑)。あの頃は金銭的な問題でできなかったけど、今はやっと本物のサウンドで自分のアルバムを作れるようになった。だから、どうすれば昔の音楽をリファレンスしたアルバムが作ることができるのか、「Lo-Fiのフィルター」を通さずに(本物の)昔のようなサウンドを作れるか考えた。そのためにビンテージのマイクや、昔のレコーディングテクニックを使ってみたりもしている。 ―ビンテージのマイクを使うアイディアは、あなた自身が指示を出したんですか? レイヴェイ:うん。 ―エンジニアリングやミックスに関しても知識があるんですか? レイヴェイ:いや、バークリーでは授業を取っていたけどテクニカルなことはすごく苦手。私ってシンプルな人間だから(笑)「そうだ、チェット・ベイカーが使っていたマイクを使おう!」とか、そういったアイデアをパッと思いつく程度かな。自分でもうまくできたらいいんだけどね……まあでも、周りにすばらしいエンジニアたちがいるから大丈夫。 ―自分の音楽にどういう音がふさわしいのか、自分でわかっているってことですよね? レイヴェイ:もちろん! ―最後に少し大きな質問を。あなたはSNSなどでファンと交流し、ファンのリクエストやアイディアを曲に反映させたりしてきましたよね。それで思ったんですが、もともと音楽は個人の表現だけでなく、自分のコミュニティのために作って演奏されてきたものです。作った曲を「アーティストのもの」ではなく、「みんな=リスナーのもの」としてシェアするあなたのやり方は、大昔の音楽のあり方に立ち戻っているようにも思いました。あなたにとって音楽を作り、ストーリーをシェアすることはどんな意味をもつ行為なのでしょう? レイヴェイ:私が聴いてきた数々の音楽には、ある目的を持って作られたものがあった。例えば、宮廷で王様に捧げられた音楽。それは娯楽であって、喜びや悲しみ、感情を引き起こす目的があった。誰かのために目的を持って音楽を作ることは、私が作り手になる以前――私が演奏者であり、リスナーだった時から音楽に求めていること。 自己満足のために音楽を作ろうとはまったく思わない。内側で塞ぎ込んでいる気持ちを「アート」という形で昇華することで、この世界の誰かに届いて、たった一人でもいい、誰かの救いになるとしたら、それが私の救いにもなる。音楽制作はセラピーのようなものでもあると思う。だから私はコミュニティに向けて音楽を作っているし、ファンのみんながどう思ったか、何が共鳴したのか知りたい。もし自分のためだけに音楽を作るなら、わざわざ世に出す必要はないと私は思ってしまう。私はみんなの声が聞きたい。それは会話みたいなもの。こういう方法で音楽を作るのも一つの芸術だと思っている。 --- レイヴェイ 『Bewitched: The Goddess Edition』 日本盤CD:発売中
Mitsutaka Nagira