世界経済減速のもう一つの要因「シリコンサイクル」
世界経済の減速懸念が広がっていますが、その一因であり、かつ今年終盤にかけて回復が期待されるある市況の存在を、第一生命経済研究所の藤代宏一主任エコノミストは指摘します。藤代氏の解説です。
4年サイクルで上下する半導体販売
最近の世界経済減速は、米中貿易戦争を一因とする中国経済の不振、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締めに伴う米国経済の成長率鈍化などさまざまな要因がありますが、「シリコンサイクル」という半導体市況の波も大きく関係しています。 シリコンとは半導体を指し、その販売(≒生産量)が波のようなサイクルを描くことからシリコンサイクルと呼ばれています。半導体はスマホ、PCなど情報通信機器のほか、自動車、家電、ロボット等の「脳」に使われる中核的部品ですから、その波はこれら製品の生産・販売とも密接に関係し、世界景気に大きな影響を与えます。 このシリコンサイクルは4年サイクルで上下することが知られており、「拡大2年・縮小2年」が繰り返されています。このサイクルが生成される理由としては、半導体メーカーが伸縮的に生産量を調節できないことがあります。半導体生産には莫大な設備投資が必要とされるため、半導体メーカーが投下資本(研究開発や工場建設に投じたおカネ)を早く確実に回収すべく、生産量を高めに維持する傾向があり、そうした下では少しでも需要が弱ると一気に在庫が積み上がり、値崩れを起こし、半導体市況が悪化します。そこで半導体メーカーが生産が絞り始めると、そのこと自体が景気の悪化を招くほか、設備投資等も減速するため、景気全体の悪化に繋がるというわけです。 現在のシリコンサイクルは2017年後半頃を天井とする下り坂の局面にあり、半導体の売上が冷え込む中で在庫が積みあがっています。したがって2019年終盤頃になれば、在庫調整が一巡し、再び上向きのサイクルに転じることが期待されます。 その牽引役として期待されるのは、次世代通信規格の5Gの普及です。現在よりも大量の高速データ通信が可能になるこの技術の登場によって、それに対応したスマホ、PCなど新製品の開発・生産が盛り上がれば、世界的に景気が良くなることが期待されます。現在は、米国がこの5Gをめぐって中国企業を排除するなど政治的要因が絡んでいるため、従来どおりのサイクルが描かれるかどうか不透明な部分がありますが、年後半に向けてシリコンサイクルが上向きに転じる可能性を認識しておくと良いでしょう。
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