「痛すぎる描写にトラウマ」頼れるはずの先生も敵に…『漂流教室』で強烈だった「非情すぎる展開」
■極限状態で壊れていく頼りがいのある存在…豹変した教師たち
荒廃した未来世界に取り残される極限状態は、前述の関谷のみならず多くの大人たちの心を打ちのめし、崩壊させていった。 6年3組の担任をしていた男性教師・若原。元々は指導力に溢れた頼りがいのある存在だったが、自分たちが置かれた危機的な状況に徐々に摩耗していき、ついには精神に異常をきたしてしまう。その結果、なんと次々に教師や生徒を殺めていく“殺人鬼”へと変貌してしまったのだ。 その殺害方法も実にさまざまで、ビニールを巻き付けて窒息させようとしたり、車を使って轢殺をするなど、ありとあらゆる方法で人を殺めていく。その姿は脅威以外のなにものでもない。 また、男子教師の荒川も、若原ほどではないにしろ精神的に追い詰められたことで、とんでもない行動をとってしまった人物の一人だ。 未来にタイムスリップしたことでパニック状態に陥る子どもたちを前に奮闘する荒川だったが、一向に鎮まることのない生徒たちに彼の精神も限界を迎えてしまう。 なにを思ったのか荒川は息子・和広を抱きかかえ、その腕目掛けて砕き割った自身の眼鏡を突き立て、子どもたちを恫喝してみせたのだ。 頼りがいのある存在であるはずの教師たちが精神に異常をきたし、おまけに“敵”として襲い掛かってくる救いのない展開はまさに恐怖のひと言。読者を絶望の淵に突き落とすこととなった。
■耐え難い激痛描写に読者も悶絶…翔の“盲腸”手術
荒廃した世界に放り出され、食料を大人に奪われ、さらに教師たちまでも襲い掛かってくる……これだけでも子どもたちにとっては十分絶望的な状況なのだが、そこに駄目押しのように襲い掛かってくるのが、数々の“病”の脅威だった。 とくに主人公・高松翔が“盲腸”に苦しめられるエピソードは、作中屈指のトラウマシーンとして本作を語る上では欠かすことができない。 数々の苦難を乗り越えてきた生徒たちだが、翔が盲腸による激痛を訴えるようになり、困惑してしまう。当然、まともな医者など存在しているわけもなく、なんと生徒たちは自らの手で翔を手術することを決意するのだ。 そんな緊迫した状況で執刀医の役を命じられたのが、クラスメイトの一人である柳瀬であった。父親が医師であり、自身も医師志望であるという理由だけで、“盲腸”手術をおこなうことになってしまった柳瀬。 これだけでもなかなか凄まじい状況だが、なんと子どもたちは麻酔もない状況下で、鉛筆削り用のカッターナイフを使って盲腸を摘出しようと、翔の腹を切り裂いてしまうのである。 生徒たちに押さえつけられ、意識がある状況下で腹を裂かれていく翔の姿はなんとも痛々しく、楳図さんの画力もあって壮絶な空気がこれでもかと伝わってくる。 物資のない状況下で病を発症する危機的状況はもちろんのこと、ありあわせの道具で無理矢理に手術をおこなう強烈な展開に、思わず目を背けてしまった読者も少なくないだろう。 突然タイムスリップし、荒廃した世界に取り残された子どもたちのサバイバルを描いた『漂流教室』。 そのあまりにも非情な展開の数々は、観る者を絶望のどん底へと叩き落していく。文明が失われた世界のなかでは、まさに信じられるのは自分だけ……ということなのかもしれない。
創也慎介