なぜ渋谷の「スクランブル交差点」に人が集まる理由。ヒントは“特殊な地形”
新宿・渋谷と並ぶ副都心の一つ、「池袋」。近年では再開発も進み、「住みたい街ランキング」の上位に位置するなど大きな変貌を遂げている。しかし池袋について書かれたものは意外と少ないはずだ。この連載では、そんな池袋を多角的な視点から紐解いていきたい。
池袋ではコスプレ文化が定着しているが…
前回は渋谷と池袋における「ハロウィン」の受け止め方の違いを見ながら、その違いがどこにあるのかを考えてみた。池袋ではコスプレイベントが「日常」的なものとして受け止められているのに対し、渋谷ではコスプレイベントが日常ではない「特別」なものとして受け止められている。 池袋ではハロウィン以外にも多くのコスプレイベントが行われているが、渋谷では街を挙げてのコスプレイベントはハロウィンの一回限りである。 池袋におけるコスプレが閉鎖的な空間で行われてきたのではなく、東池袋中央公園のような開かれた場所で継続的に行われてきた、ということだ。私自身も池袋を歩いている時、不意にコスプレイヤーに出会ったことが何度もある。つまり、池袋においてはコスプレが日常空間に浸透しているのである。
渋谷のハロウィンに“特別性”が宿る理由
逆に渋谷はどうであろうか。すでに書いた通り、渋谷ではハロウィンをのぞいて、街全体でコスプレイベントが行われるということはない。行われているのは、例えばバーなどの限られた空間で行われるオフ会のようなものがほとんどである。つまり、渋谷のハロウィンは年に一度行われる、「特別」なものなのである。 ここで私が指摘したいのは、渋谷で行われるハロウィンに“特別性”が宿る理由は、その頻度だけではなく、渋谷という都市が持つ地形的な特殊性にも起因するのではないかということだ。どういうことか。
スクランブル交差点に若者たちが集うのは…
ご存知の通り、渋谷の中心にあるスクランブル交差点はその四方を道玄坂、宮益坂、公園通りの3つの「坂」にはさまれている。渋谷は街全体として「お椀型」になっていて、ちょうどそのお椀の底がスクランブル交差点になっているわけだ。お椀の底には人々が滞留し、集まりやすくなる。 単純なことかもしれないが、この「スクランブル交差点が底にある」という地形的な特徴こそが、渋谷が人々を集め、そこでのエネルギーを(いい方向にも悪い方向にも)発散させていく一つのきっかけになっているような気がする。そういえば、ハロウィンだけではなく、新年や、ワールドカップで日本チームが勝利をおさめたときも、なぜだかスクランブル交差点に若者たちは集う。それはそこが「お椀型の底」で集まりやすく、彼らにとってのドラマチックな空間を提供しているからではないか。 ちなみに、「坂」は民俗学的な知見からも特別な意味を持たされてきた。日本神話に登場する「黄泉平坂(よもつひらさか)」などに顕著なように、「坂」は古来から、日常世界と異世界をつなげる境界の役割を果たしてきたのだ。なるほど、そのように考えると坂の底にあるスクランブル交差点とは、若者たちにとって一種の「異世界」であり、ある種の「ハレ」の空間を作る地形なのであろう。