1300年の伝統を拡張する、畳の新たな可能性:山田一畳店
ー変形畳の魅力について教えてください。 変形畳の一番の魅力は、光が当たったときのイグサの美しさです。畳店の息子として何十年も畳を見て育ちましたが、光が当たったときのマテリアルの美しさに感動しました。特定の時間になると、まるで金箔を貼ったかのように輝きます。変形畳は時間帯や天候などにより、その瞬間の美しさを見せてくれます。夏になると青白っぽい色合いになり、冬になると優しい織り目の色になるといった季節感があり、また夜になると照明によって白っぽくなるなど時間帯によってもさまざまに表情を変えます。畳により日常生活の中でこういった光の変化を感じられることは、とても面白いと思います。 私は光そのものを扱っています。谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』の世界観を畳で表現し、光をどのように感じられるかがダイレクトに反映され、畳自体が光を測る装置となります。変形畳を作り織り目の角度が複雑に存在することにより、このような光と色の変化に初めて気づきました。 また一般的な長方形の畳は内部と外部の境界が明確ですが、変形畳にするとその境界が曖昧にできるのではないかと仮説を立てました。2023年に開催した東福寺光明院での展覧会では内と外を隔てる壁面を開放できたことで、室内にある鶴のデザインの畳と外部にある重森三玲の枯山水の庭園との連続性が生まれました。外光が入り、朝日が当たると鶴のクチバシが輝いたり、時間帯や季節によっても畳の色合いが変わります。
ー龍や鶴といった具象から円や多角形を敷き詰めた幾何学模様など幅広いデザインが特徴的ですが、アイディアの源、参考にしているものやことなどあるのでしょうか。 SNSやYouTubeを頻繁に見て、最新のトレンドやアイディアを得ています。無料で学べて、多くの情報を瞬時に獲得できる良い時代だと思います。また、美術館にも足を運び、現在は京都芸術大学で通信教育を受けています。 SNSやYouTubeでバズっているコンテンツを分析し、なぜ人気があるのかを考えることが好きです。今後は、自分の作品を使った動画を制作し、発信していきたいと思っています。 ー今年の夏に主催された「WAZA ART FES」の目的や経緯について教えてください。 私が発起人となり、約40名のクリエイターや専門家を集めたアートイベント「WAZA ART FES」を、名古屋にある「文化のみち橦木館(しゅもくかん)」で1ヶ月間開催しました。イベントを開催したきっかけは、変形畳の制作や展示を通じていろいろな面白い専門家に会うことが増え、メジャーでなくとも興味深い方々が多く、異文化交流をしたいと思うようになったことからです。展示だけでなく、工芸作家のワークショップや実演、ダンサーのパフォーマンス、美容師によるヘアメイクショーなど、異業種間のコラボレーションが自然と生まれ、非常に充実したイベントとなりました。