「長いトンネルのむこうに行くよ」老いたアナグマが残した“贈り物”とは…世界的ベストセラー絵本『わすれられない おくりもの』(レビュー)
書評子4人がテーマに沿った名著を紹介 今回のテーマは「贈り物」です *** 「長いトンネルの むこうに行くよ さようなら」 そんな手紙を残して、老いたアナグマは命を終えた。物知りで賢く、森のみんなに頼りにされていたアナグマ。残された者たちは悲しみにくれるが、思い出を語り合ううちに、アナグマがたくさんのものを残していってくれたことに気づく。 『わすれられない おくりもの』は、イギリスの絵本作家スーザン・バーレイによる世界的ロングセラー(小川仁央訳)。「死」というテーマを温かく描き、小学校の教科書にも掲載された。 老眼鏡をかけ杖をついて歩く、ちょっと太ったアナグマが魅力的。デフォルメしすぎず、それでいて愛嬌のある姿にほどよく擬人化している。作中、アナグマはあくまでもアナグマと呼ばれていて、変な名前をつけられていないのも好ましい。ちなみにアナグマは、イギリスではとても親しみのある動物だそうだ。 アナグマの贈り物はモノではなく、知恵と工夫だった。モグラには鎖のようにつながる切り絵のやり方を、カエルにはスケートの滑り方を、キツネにはネクタイの結び方を、ウサギにはしょうがパンの焼き方を教えた。 生きるために必須の技術というわけではないが、暮らしを豊かにするものを残したのだ。それも、ひとりひとりの側(そば)で、ゆっくりと時間をかけて。 教訓的なことは書かれていないが、余命を意識し始めた身としては、自分はいったい何を残せるのか、深く考えさせられた。 [レビュアー]梯久美子(ノンフィクション作家) かけはし・くみこ 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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