鬼畜だらけ…実在の猟奇殺人鬼がモデルの映画(2)犯罪史に残る女殺人鬼…壮絶な過去が生んだ怪物とは?
事実は小説より奇なり。今回は実在する殺人鬼をモデルにした洋画をピックアップ。理解に苦しむ残忍な連続殺人や、思わず同情してしまうような壮絶な生い立ちを持つ犯罪者が続々と登場。映画としての魅力はもちろん、モデルとなった事件についても深掘りして紹介する。今回は第2回。(文・寺島武志)
『モンスター』(2004)
原題:Monster 製作国:アメリカ 監督・脚本:パティ・ジェンキンス キャスト:シャーリーズ・セロン、クリスティーナ・リッチ、ブルース・ダーン、リー・ターゲセン 【作品内容】 1989年から1991年にかけて7人の男性を殺害した罪で死刑判決を受け、アメリカで死刑になった10番目の女性となったアイリーン・ウォーノス。本作は2002年に刑が執行された彼女の半生を描いた作品。 娼婦として生計を立てていたアイリーン(シャーリーズ・セロン)は、酒場で同性愛者のセルビー(クリスティーナ・リッチ)と出会う。アイリーンとセルビーは瞬く間に惹かれ合い、激しく愛し合うようになる。 2人で一夜を過ごす為のホテル代を稼ぐためにアイリーンは客を取るが、客から暴行を受けたことで、逆上。男を殺害してしまい…。 【注目ポイント】 本作のモデルとアイリーン・ウォーノスは、生涯で7人の男性を殺害し、アメリカ史上最悪の殺人鬼として知られるテッド・バンディの女性版として恐れられた存在である。 彼女の生い立ちは壮絶を極める。母はアイリーンが生まれる2か月前に離婚し、アルコール依存症になり育児放棄。4歳の時には彼女を捨てて出て行ってしまう。 父は精神病を患い、精神病院に入退院を繰り返した上に、少女に対する強姦罪で有罪となり服役中に自殺。アイリーンは生涯、この父に会うことはなかったという。 母親に捨てられたアイリーンと兄は母方の祖父母によって育てられるが、日常的に祖父から肉体的、性的な虐待を受けた。ベルトのバックルで殴られたことや、ライターのオイルをかけられ、火をつけるという虐待を受けたこともあったという。 また祖母はアルコール依存症でもあった。今でいうところの“親ガチャ”の負け組の典型といったところだ。アイリーンが犯した犯行は残忍極まりなく、擁護のしようがない。しかしながら、そんな“モンスター”を生んだ環境や、世間、社会に思いを巡らせると、アイリーンに同情を禁じ得ないのもまた事実だろう。 本作を観る者は、アイリーンがセルビーと出会うことで愛や優しさに触れ、変わるチャンスもあったにも関わらず変われなかった現実に、やるせなさを感じるに違いない。
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