日本の労働組合は「ごっこ遊び」レベル…「労働運動後進国」に生きる我々が今すべきこと
「終わりのない成長を目指し続ける資本主義体制はもう限界ではないか」 そんな思いを世界中の人々が抱えるなか、現実問題として地球温暖化が「資本主義など唯一永続可能な経済体制足りえない」ことを残酷なまでに示している。しかしその一方で、現状を追認するでも諦観を示すでもなく、夢物語でない現実に即したビジョンを示せる論者はいまだに現れない。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 本連載では「新自由主義の権化」に経済学を学び、20年以上経済のリアルを追いかけてきた記者が、海外の著名なパイオニアたちと共に資本主義の「教義」を問い直した『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井手壮平著)より抜粋して、「現実的な方策」をお届けする。 『世界の賢人と語る「資本主義の先」』連載第13回 『一人のパート女性がストライキで賃上げを勝ち取る! 日本の労働運動の意外すぎる「現状」』より続く
強い労働組合
「UAWはアメリカン・ドリームを救っている(The UAW is saving the American Dream)」 ビッグスリー(大手自動車会社3社)すべてから、4年半で25パーセントの賃上げをはじめとする大幅な譲歩を引き出し、闘争収拾の方針を示した際、全米自動車労働組合(UAW)のフェイン会長が放った言葉だ。 アメリカン・ドリームという言葉はしばしば、勝者総取り方式のアメリカ型競争社会を勝ち残った一握りの人たちが手にする巨大な富を指すと誤解されることがある。だが、言葉の本来の意味は、工場労働者であっても一軒家に住み、子どもを大学に行かせることができ、老後は年金で苦労なく過ごせる――つまり、まじめに働きさえすれば「中流」の人生を送れることを指した。それを可能にした重要な要素の一つが、強い労働組合だった。
労組の名に値しない日本の労組
試算によると、2023年の賃金交渉の結果が反映されれば、GMやフォードの工場で働く労働者であっても、年収10万ドルに到達することが可能になるという。工場がある地域の物価水準を考えれば、十分に快適な人生を送れる水準だ。貧富の差の拡大が続くアメリカで過去のものになりつつあったアメリカン・ドリームは、たしかに息を吹き返しつつあるようだ。 一方で、日本の労組のほとんどは労組の名に値しない――。 この指摘を「何をいまさらわかりきったことを」と感じるか、驚きをもって受け止めるかは人それぞれだろう。労組自体にまったく接点がなく、何のイメージも持っていないという人も増えているだろう。 だが、アメリカの自動車産業などで起きていることを見れば、労組が本来経済の中で果たしうる役割も、翻って日本に本当の労働運動がほとんど存在しないという言葉の意味するところもよく見えてくる。 「産業別労組こそが本来の労組だと言っても、現に日本でも産別組織はあるではないか」と思う人もいるかもしれない。たしかに、日本にも自動車総連や電機連合、日教組など、産別組織は存在する。だが、日本の産別組織は統一的な要求を掲げることはあっても、それは単なる目安であり、満足のいく回答が得られなければ一斉にストなどということは万に一つもあり得ない。