犯罪の“被害者”と“加害者”の「対話」は可能なのか? 外国で実践されている「修復的司法」とは
4月18日、犯罪被害者支援のため、日本司法支援センター(法テラス)の業務を拡充する総合法律支援法改正案が衆議院本会議で全会一致で可決・成立した。 高橋教授の新著『刑の重さは何で決まるのか』 新制度の名称は「犯罪被害者等支援弁護士制度」。殺人や危険運転致死などの遺族、不同意性交など性犯罪の被害者を対象にして、弁護士が早い段階から継続的・包括的に被害者を支援する。 法務省が発表した本制度に関する実務者協議会の取りまとめには、対象となる支援活動の一種として「修復的司法(加害者との対話)」が含まれていた。
被害者と加害者の関係の回復をめざす「修復的司法」
既存の刑事司法制度は、国が加害者に与える刑罰を決定するための「応報的司法」と表現される。 一方、「修復的司法」は、応報的司法に対する異議申し立てとして登場した。「修復的正義」と呼ばれることもある。犯罪により被害者と加害者、両者の家族などの「コミュニティ(関係者・地域社会)」に生じた「害」の回復をめざす考え方だ。 従来の応報的司法では、国から加害者に与える刑罰、加害者が国に対して負う「応報責任」のみが注目される。犯罪被害者の救済が目的ではなく、損害の回復などは民事訴訟を通じて行うものとされる。 他方、修復的司法では、加害者が被害者やコミュニティに負う「応答責任」が問われ、被害者に生じた害を回復するために、加害者が能動的に責任を果たすことが重視される。 具体的には、加害者が被害者や遺族と会い、被害者の思いや望みを加害者が聞くなどの対話を行うことで両者の関係の回復が試みられる。
諸外国で実践される修復的司法制度
ドイツでは、1994年の「犯罪防止法」により「加害者と被害者の和解」が規定された。加害者が被害者に対し損害回復すると、1年以下の自由刑であれば刑が免除、1年以上の刑も軽減される。このように事件を刑事手続から排除する手続きは「ダイバージョン」と呼ばれる。 オーストラリアやニュージーランドでは「家族集団会議」が実践されている。被害者・加害者の家族や友人、事件に関わった警察なども対話に参加する。 カナダで行われている「サークル」には、事件に関心のある地域社会の人々も参加することができるという。 近時、修復的司法を法制化したのがイタリアであり、刑事司法と並立するものとして扱われている。 また、マオリ族やナバホ族などの先住民社会では、過去から修復的司法が実践されてきた。東アジア諸国のなかでは、キリスト教徒の多い韓国でもっとも発展している。