犯罪の“被害者”と“加害者”の「対話」は可能なのか? 外国で実践されている「修復的司法」とは
被害者は「対話」を望んでいるのか?
犯罪の被害者やその遺族が加害者と会うことは、心理的な負担が大きいのではないか。 4月に『刑の重さは何で決まるのか』(ちくまプリマー新書)を出版した早稲田大学の高橋則夫名誉教授(刑法学)によると、対話などの取り組みを行う際には被害者側の自発性が重視されている。イタリアでも「被害者の同意の取り方」も法制化されているという。 また、そもそも被害者や遺族は、加害者が罰を受けることを希望しており、関係の修復など求めていないのではないだろうか。高橋教授は「“加害者と会ったらぶん殴ってやろう”と思っている被害者もいるでしょうし、そういった方を会わせるわけにはいきません」と言いつつ、「被害者は一枚岩ではない」と語った。 「犯罪の被害者や遺族が望むことは、人によって違います。加害者に対して自分の声を伝えたい人もいれば、娘を殺された母親が“娘は最後にどんな様子だったか”を加害者の口から聞きたいと望むこともあります」(高橋教授) 修復的司法は加害者の回復もめざすことから「犯罪者を甘やかす発想だ」と考える人もいるかもしれない。だが、現行の刑罰制度も加害者を「懲らしめる」のではなく「更生させる」ことを目的にしていると高橋教授は指摘する。 「“被害者は加害者への罰を望んでいる”と決めつけてはいけません。加害者に対する刑罰を厳しくしろ”という世間の声は、必ずしも被害者の気持ちを反映していないのです」(高橋教授)
日本で修復的司法は実現するか
日本における示談制度は、和解を成立させることで刑事手続が不起訴になる場合があるなど、ドイツでの「ダイバージョン」と似た機能を持つことが指摘されてきた。 ただし、犯罪に関する示談手続には「起訴されるまで」というタイムリミットが設けられており、急いで進める必要がある。また、加害者側が慰謝料などの相場に基づく金銭を渡すことで解決を図ることが一般的であり、「対話」が成立しているとは言いがたい。表面的には和解であるが、事実上は被害者側の「泣き寝入り」となる事態が多いことも問題視されてきた。 修復的司法は、加害者が起訴された後や刑務所に収監された後などにも、時間の制限なく続けられる。また、対話を通じて、金銭に限定されないさまざまな被害者の要求を満たすことができる。犯罪が被害者や加害者や関係者たちに及ぼした「害」を回復するための長期的・包括的な「プロセス(手続き)」が修復的司法である、と高橋教授は語る。 日本では2001年に山田由紀子弁護士が「NPO法人対話の会」を設立した(千葉県)。被害者支援を実践しており修復的司法に関心を持つ弁護士も多いが、現時点では法制化されていない。犯罪被害者等支援弁護士制度に期待がかかっている。 最後に、修復的司法を研究している立場から弁護士に伝えたいことはあるか、高橋教授に聞いた。 「弁護士法には“社会正義を実現することを使命とする”と書かれています。弁護士には依頼者が勝つことだけを考えるのではなく、紛争を通じて被害者・加害者・社会の三者すべてにとっての正義を実現することも考えてもらいたいです」
弁護士JP編集部