【田村藤夫】必ずどこかでつまずく…DeNA度会隆輝にとって今がプロの壁を感じるべきタイミング
【182】<ファームリポート:DeNA5-3オイシックス>◇9日◇横須賀 DeNAの度会隆輝外野手(21=ENEOS)のプレーに、攻守において明確な改善点が見受けられた。 ◇ ◇ ◇ 第1打席は2回の先頭バッターとして迎えた。フルカウントから外角高めのボール球を振ってファウル。続けてファウルして、8球目の内角真っすぐに詰まり左飛。 6球目の外角高めの真っすぐは、明らかなボール球だった。私はスタンドの一番上で見ていたが、それでも歴然とわかるボール球だ。バットの出方で判断がつく。ほぼ肩のあたりのボールを振っている。ストライクゾーンからボール2個は高かった。 では、なぜそんなボールを振ってしまうのか?私の推測だが、見逃したくないのだろう。度会は積極的なバッターという印象がある。チャンスがあるなら、どんどん振って行こうという前向きなものを感じるが、先頭打者としてフルカウントからはっきりしたボール球を振ってはダメだ。 まず、ボール球を振らないということはいい打者の根本的な条件になる。確かにワンバウンドをヒットにしてしまう打者や、ハイボールヒッターでインハイをヒットゾーンに打ち返す強者もいる。しかし、そうした特異なバッターは、ボール球ですらヒットにしてしまう高度な技術を備えている、ということだ。 現段階の度会の力量からすれば、外角高めはいくらチャレンジしてもヒットになる確率はかなり低い。まず、先頭打者としてしっかり見極めて出塁する。それがチーム貢献の一歩になる。自分の思いが優先して、出塁のチャンスをフイにしてしまえば、その姿勢では特に先頭打者として評価されないだろう。 頭では理解していても、思わず体が反応してしまう、そういうこともあるだろう。ただ、そこは厳密に考えるべきで、ボール半個高いのを振ってしまうのと、2個外れた高さを振ってしまうことは分けて考えるべきだ。 そうした意識を常に持ち続けることで、少なくともボール1個高い時はバットが止まるようになるはずだ。そうやって、自分ができることを精度を上げ、確実にやることがとても大切だ。 私の想像だが、仮に度会が見逃したくない、ヒットを打ちたいとの思いが強くて振っているならば、それは相手バッテリーには好材料となる。ストライクゾーンに投げずとも打ち取れると判断され、さらに度会が苦しむことになる。 また、守備では2回表のオイシックスの攻撃で気になるプレーがあった。1死満塁で、打球はセンター度会の前に飛んだ。やや右中間よりのハーフライナーで、定位置よりも少し前で捕球したが、度会の体勢は前がかり過ぎていて、本来なら体の前、顔から胸のあたりで捕球して送球動作に入るべきが、頭の上でようやく捕球していた。 重心が後ろにかかっているため、三塁走者のタッチアップを刺すことができなかった。二塁に送球するのがやっと、というプレーだった。 打球判断を間違わずに捕球していれば、前進して捕球→勢いをつけて本塁に送球、という場面。ハーフライナーがどこまで伸びるか、その見極めは難しいが、そこで反応して確実にホームに送球できる外野手が求められる。捕球で精いっぱいでは、度会の能力からすれば物足りない。 この場面は課題に感じたが、難しい打球を判断よく、そしてガッツあふれるプレーでアウトにしたシーンもあった。今は、バッティングも同じだが、いいプレーと、物足りないプレーが入り交じっている。いい部分は、物足りないプレーで打ち消されてしまう。そこがもったいない。 第3打席は内野安打で出塁も、2死一塁と絶好の盗塁のチャンスでスタートを切らなかった。投手のクイックは1・31。状況からすれば、当然チャレンジすべき場面だった。もしかすると、ベンチからの制約があり、走れなかった背景があるのかもしれない。私とすれば、度会の思い切りのいいスタートを見たかった。 ずいぶんと厳しいことばかり並べたが、度会がファームで懸命に打ち、守る姿を見て、尊い時間を送っているなと感じている。 開幕戦から2戦連発と素晴らしいデビューをして、強烈なインパクトを与えた。このまま、どこまでも活躍したならば、それがチーム、本人、そしてファンにとり最高のルーキーイヤーとなっただろう。 私はこう感じている。プロの世界は必ずどこかでつまずく時が来る。そこに例外はない。度会にとっては、今がそのプロの壁を感じるべきタイミングなのだろう。フルカウントになってから高めのボール球を振ることや、飛球を捕ってから次のプレーに移行する体の使い方や打球判断など、度会が学ぶべきポイントはいくつかある。 それを、こうしてファームで見つめ直すこと、向き合えることは、これからの長いプロ生活を考えた時、なくてはならない大切な時間だ。プロの世界は緻密だ。どんなほころびが、大きなスランプにつながっていくか、それは誰にも分からない。 私が考える最強の選手とは、自分の課題を誰よりも早く自分で察知し、それを直す術を自分で見つけ、実戦できる選手だ。常に改善点は隣り合わせだ。それに気づくか、気づかないか。無意識のうちに幸運にもそのほころびが露呈しないまま時間が過ぎるケースだってある。 1軍デビューするまでに、そのほころびにまみれて鍛えられ、十分に力をつけてから一気に階段を駆け上がっていく選手もいる。そして、それは選手個々によって千差万別で、どんな道のりになろうとも、最終的には自分で作り上げた選手像ほど強いものはない。 細かく分析すれば、今の度会には気を付けるべきポイントは確実にいくつかある。そこに対して、ファームでしっかり取り組み、昨日よりも今日、今日よりも明日と、1ミリずつでも前進していけばいい。 左打席に入る度会の背中には、デビュー戦でつかんだファンの声援が熱く飛んでいた。ファンに応援されながら、少しでもうまくなろう、成長しようという姿勢を見せ続ける限り、度会はどんどん進化していくと信じる。 この若者にして、この試練あり、だ。ボール球への対処、捕球直後の送球への連動、これらを克服した先、たとえもっと難解な課題や試練に直面したとしても、度会ならば乗り越えていくだろう。そう感じさせてくれる、まさに若武者のはつらつさを感じた。(日刊スポーツ評論家)