脳ミソ0gの"単細胞"に人間凌ぐ"知性"…関東地方の形の容器に粘菌を置くと26時間後に本物の「JR路線図」完成
■粘菌を関東地方の形をした容器に置くとどうなる? 2008年にイグノーベル賞の認知科学賞を受賞した研究者は、粘菌が簡単な迷路を解けると発見した後、もっと複雑な形で粘菌のかしこさを調べてみることにした。 関東地方の形の容器を作り、大きな都市がある場所に少しだけエサを置いた。また、都心部であるJR山手線の内側には大きなエサを置き、さらにその上に粘菌の一種のモジホコリを置いた。 数時間経つと、モジホコリはエサを食べるために容器中に体を引きのばした。次第にエサが置かれた場所は管でつながれ、26時間後にモジホコリは、大きな都市をつなぐ鉄道網のような形になっていた。その形は、本物のJRの路線図と似ていた。 このときは平らな容器で実験を行ったが、実際の関東地方には、標高の高い場所や湖など、鉄道がしきにくい場所がある。そこで、そのような場所にはモジホコリが嫌う光を当て、実際の関東地方に合わせた条件で調べた。 すると、モジホコリが作った形は、本物の鉄道網よりも人や物を運ぶ効率が良いことや、危ない場所を避けたルートを選ぶため、事故に強いことがわかった。このとき、モジホコリの成長を予測するための計算式も開発した。 こうして、モジホコリは人間が一生懸命考えた「いちばん良い形」に似た鉄道網を設計できることがわかった。そのため、モジホコリを使った実験は、今後、大きな都市をつなぐ交通網を作るときに、お金をムダに使わない効率的なルートで、かつ災害の危険が少ない安全なルートを考えることに役立つかもしれないという。インターネットや電話、センサーなどの通信網を作るときにも役立つ可能性がある。 この研究は、研究者にとって2度目のイグノーベル賞受賞となった。授賞式では『粘菌からの手紙』と題した文章を読み上げ、「東京の鉄道網の設計は簡単だったが、ボストンのはちょっとしんどかった」と観客に伝えた。 →大きな都市をつなぐ鉄道網の形になり実際の路線図と似ていた ※2010年 交通計画賞 中垣俊之(はこだて未来大学)ほか ---------- ▼ここがスゴイ‼️ ただでさえ粘菌が迷路を解けることにはおどろきましたが、ましてや人が一生懸命考えた鉄道網の形を粘菌も構成できるなんて……。粘菌のかしこさは限界を知りません! 粘菌には脳も神経もないのに、まさに生命の神秘ですね。 ---------- ---------- 五十嵐 杏南(いからし・あんな) サイエンスライター 1991年愛知県生まれ。日英両言語でものを書くサイエンスライター。トロント大学で進化生態学と心理学を専攻。インペリアル・カレッジ・ロンドン修士課程修了(科学コミュニケーション)。時にはシリアスに、時には肩の力を抜いたテイストで、科学誌やオンラインメディアを中心に記事を執筆している。著書に『世界のヘンな研究 世界のトンデモ学問19選』(中央公論新社/2023年)、『生き物たちよ、なんでそうなった⁉ ふしぎな生存戦略の謎を解く』(笠間書院/2022年)、『ヘンな科学 “イグノーベル賞”研究40講』(総合法令出版/2020年)。雑誌『子供の科学』(誠文堂新光社)で「動物園の動物」連載中。 ----------
サイエンスライター 五十嵐 杏南