レオス・ヴィンセントが体現する“一流への道筋” パッションでにじさんじを引っ張る、狂気の科学者
現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。 【画像】レオス・ヴィンセントが描いた戸愚呂兄弟 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。 育成プロジェクトである「バーチャル・タレント・アカデミー(VTA)」からも新規ライバーがデビューし始めており、現在約150名のメンバーが所属・活動しているにじさんじ。その層の厚さで今後も大きな影響を与え始めている。 先週からローレン・イロアス、レオス・ヴィンセント、オリバー・エバンス、レイン・パターソンからなる「エデン組」についてフォーカスし始めたが、オリバーにつづき、今回はレオス・ヴィンセントについて書いていこう。 ■初配信前から垣間見えていたユーモアのセンスとクリエイティビティ レオス・ヴィンセントは、7月19日にSNSに初投稿し、22日午後に初配信を迎え、デビューを果たした。じつは初配信を迎える19日から22日までの間、SNSには独特な画風と愛らしいゆるキャラを描いたイラストのみを投稿し、挨拶やコミュニケーションを一切とることなく初配信を迎えた。にじさんじからデビューする“変わった新人”の振るまいは、当時から話題を呼んでいた。 肝心の初配信はというと、開始前のオープニングにはSNSで何度も投稿していたゆるキャラが大行進するアニメーション映像が流れ、配信がスタートすると、自分自身のことよりゆるキャラ「まめねこ」のことを話すばかり。 しかも、まめねこを紹介するために何枚ものスライドと絵を用意していたが、「デビューするまでにいろんなことをしなくてはならず、途中で断念した……」と途中で制作を断念したことを明かし、紹介を終えてしまう流れとなった。 デビュー早々に自身のミスを謝りつつ、自身の内にある壮大なクリエイティビティと勢いを発したレオス。「謎のキャラクター・まめねこの紹介に時間を割いて、途中半端でストップする」という、不可思議かつ鮮烈な印象を残したこのデビュー配信は、見ているこちらがおもわず「何を見せられた?」と感じてしまうほど。とはいえ、レオス・ヴィンセントのパワーを感じずにはいられなかった。 初配信を終えた翌日23日には、クリアするのも難しい高難易度ゲーム『超魔界村』のノーコンティニュークリアに挑戦。いちど死ぬと最初のステージからやり直し、クリア条件は全ステージ2周&ラスボス討伐とかなり厳しい条件が求められるのだが、約9時間ほどかけて無事クリアを果たした。 またVTuberとしては珍しく喫煙者であることを明かしており、「家の椅子は全部バランスボールなんです」「ジムも通っているんですよねぇ」などと話しながら、途中でタバコ休憩を挟むという、健康なのか不健康なのかわからないトークを披露していた。今となっては懐かしく、当時としては衝撃的なインパクトを誇っていた。 『超魔界村』配信の開始前に「多分いけるんじゃないかな」と投稿していたのだが、まさに有言実行してみせたレオス。約1年ぶりとなる新人ということでかなりの注目が集まっていたなか、このときすでに彼のYouTubeチャンネル登録者は10万人を超えており、当時のにじさんじリスナー・ファンがどれほど彼に注目していたかが伝わるだろう。 先のイラスト/アニメーションの話からも分かるように、レオスはイラストを得意としており、現在でもゲーム配信のなかで何かを描いたり、公式番組内でフリップ回答の際にちょっとしたイラストを添えたりと、その絵心・画力・アイディアを楽しむことができる。かなり丁寧に描いていることもあれば、ギャグ調のイラストをポンッとと描いたりなど、デビュー時からその才能は光っていた。 特に彼がデビューしてすぐ、2021年8月20日に配信された夏休み特別企画『にじヌ→ン』において、共演者・加賀美ハヤトのマスコットを考えた際には、某ジャンプマンガの凶悪な兄弟を模した「死にすら値しない人」を描き、司会のリゼ・ヘルエスタやゲストとして出演した叶から「ちょっと待って?大丈夫ですか?」「なんか聞いたことあるな?」とツッコまれていた。 このワンシーンでみせた画力とセンスは、先に書いたデビュー配信のインパクトともに「レオス・ヴィンセントとはどんな男か?」ということをファンに知らしめることになった。 絵については幼稚園のころから描き続けており、現在はiPadを使っているとのこと。インディーゲーム『パスパルトゥー:アーティストの描いた夢』をつかった配信を何度かしており、ゲーム内で絵を描いて楽しんでいる。美術展などに足を運ぶこともあるようで、『パスパルトゥー』をプレイする際の配信タイトルには、ルーヴル/メトロポリタン/エルミタージュ/ニューヨーク近代美術館など、有名美術館をあげているあたり、彼自身も相当意識していそうだ。 レオスといえば、語尾を「○○ですねぇ~」「△△なんだけどぉ~、もぉー!」と伸ばし気味にしたり、心持ち遅めにしゃべっている影響で、すこしネットリとした丁寧口調で話すのが特徴的。 そのなかでもユーモアの心を忘れず、ポロっと、あるいは狙い澄まして笑える言葉を零すことが多々あるところも、そんな魅力を引き立てる。 デビューしてすぐ、先輩である笹木咲とのコラボ配信中、先にミスして死んだ笹木がブツブツと独り言を口にしているのに耐えかね「うるさいのよぉ、貴女はぁ!」と、新人らしからぬ勢いでツッコミを入れたこともある。 にじさんじの先輩たちや見ず知らずのタレントたちを前にしてでも、大げさな口調と表現を軸にして、大胆に煽り・イジり、ときに冷静にツッコむ会話術も、彼のいる場ではいまやお決まりの名物となった。そんないまの彼に繋がる、ある種の“プロトタイプ”なシーンこそが、前述した笹木との配信には詰め込まれている。先輩後輩関係なく、イジる・イジられる・煽り・煽られる、そんな立ち位置を決定的にしたコラボ配信だ。 そんな彼は、とある仲良しコラボの誕生のキッカケにもなっている。にじさんじ公式企画『にじさんじ甲子園2022』において、自身がドラフトした壱百満天原サロメを投手に、樋口楓を捕手としたバッテリーを「ですわバッテリー」というコンビ名を命名し、その後配信中・大会中で使われることになった。 サロメは球技やチームスポーツが大の苦手であり、企画への参加辞退を運営側に伝えていたのだが、連絡がうまく伝達されずにそのままドラフトされてしまったという裏話がある。だが、偶然この時に「ですわバッテリー」として樋口と組み、そしてお互い関西生まれという共通点もあったことで、その後樋口とサロメは公私ともに仲良くなっていった。彼がひっそりと成し遂げたレガシーともいえる。 このように、さまざまなコメント、一言に彼のセンスが垣間見えるのだが、それが思いっきり発揮されるのが、大型企画や公式番組といった場所だろう。 特に3Dビジュアルを手に入れて以降の彼は、180センチの大柄な体で身を張り、大声を上げ、時にウィットに富んだ一言や場の呼吸をうまく読んでのボケ・ツッコミと、縦横無尽の活躍を見せている。とくに彼の“大声”が配信で炸裂した際には音割れが発生するレベルであり、ウトウトしていたリスナーがおどろいて飛び起きるほど。 「マッドサイエンティスト」というプロフィール、それにピッタリな白衣とスーツ、青い髪色の短髪にメガネというビジュアルを持つレオス。たしかに知性派で絵心もある彼だが、実際にデビュー直後から数年の動きを見てみると、頭脳をフルに働かせつつも、“ここぞ!”という肝心要な瞬間にはパッションや気合いで押し切っていくような、どちらかといえば「パワータイプ」な人物として知られていったのだ。 ■にじさんじで鍛えたエンタメ力で “本物”と同じ土俵で対峙しはじめたレオス・ヴィンセント そんな彼の魅力・狙いが全開となった企画が、つい先日彼のYouTubeチャンネルに公開された『にじさんじスポーツ王決定戦』である。 タイトルでピンときた方もいるはずだが、この企画はかつてTBSで放送されたテレビ番組『スポーツマンNo.1決定戦』をオマージュした内容となっている。主催であるレオスを含め、同期のオリバー・エバンス、春崎エアル、成瀬鳴、ベルモンド・バンデラス、長尾景、風楽奏斗、渡会雲雀の8人が出場している。 かつて番組内で競技された「タッグ・オブ・ウォー」を始めとし、同系列番組『筋肉番付』で人気があった「ストラックアウト」なども種目にありつつ、くわえてこの企画独自の競技が追加されるなど、懐かしさと新鮮さがないまぜになった企画となった。 多くの人を何よりも驚かせたのは、本企画の実況として本家『スポーツマンNo.1決定戦』で実況役を務めた古舘伊知郎が担当したことにある。 古舘は2024年を迎える今年、御年70歳の大ベテラン(!)。近年では2015年12月に『報道ステーション』を降板して以降、テレビの舞台からフェードアウトしており、この企画で久しぶりに古舘の声を聞いた!という方もいたはずだ。『スポーツマンNo.1決定戦』そのものも、2009年を最後に放映されておらず、いわば「平成らしい懐かし番組」の一つとして数えられる名番組である。 無事に企画動画を投稿したあとのレオスの振り返り配信では、古舘サイドとレオスサイドとのミーティングの場を設け、直談判したときのエピソードが明かされている。 「古舘さん、わたくし、制作会社、マネージャーで集まって、大元の『VTuber』についての説明、技術的な説明をしたんです。そのとき、古舘さんからは言い方はちょっと違うけど『わたしは、本物のアスリートが汗流して全力でぶつかり合ってるのをその場で実況してきた。VTuberの皆さんがやられるとのことですが、本物のスポーツ選手がやっている、熱量をぶつけ合ってるものに対して、VTuberが勝っているものはなんですか?』とハッキリ言われたんです」 「これをマネージャー任せにしたり、半端な返答をしたら多分(オファーを)うけてもらえないだろうなと思った。なのでまずVTuberの説明から入って、『ハッキリ言って劣化版だと思います』と話しつつ、色んなエンタメを届けていくうえで、自分が一番アツく見れた時代のものを、VTuberとして等身大かつ全力で挑んで、いまの視聴者に届けたい、と伝えた。そのアツさを伝えるために、どうしても古舘さんにやっていただきたいと話しをした。どちらかというと、ロジカルじゃなくて熱量を伝えたんですね」 レオスのパッションを静かに受けきった古舘は、「(私は)原始仏教の研究を最近しているんですが……」と断りをいれつつ、「つまりVTuberというのは、ある意味では仏教における“不滅”を体現している存在で、みている視聴者にとっての“偶像”となることで求心力を得ているんですね」と理解したようで、これを経て古舘はオファーを快諾してくれたという。おもわずレオスも「古舘さんの中で原始仏教とVTuberが繋がった!?」と内心驚いた。みごと古舘の実況アナウンスが決定したのだ。 この企画動画が投稿されると、にじさんじの先輩・鷹宮リオンは「みんなもちろん頑張ってるのもすごいし、古舘さんの語彙力がすごかった。感動したもん」と感服したように語り、それ以外でも大小さまざまな反響が寄せられ、大きな話題となった。 にじさんじのタレントらを始めとしたVTuberたちは、2017年~2018年の黎明期のころからテレビ・ラジオ番組の企画やタレント達のモノマネ・オマージュでリスナーの興味をひき、ファンを徐々に生み出していったという一面がある。古舘からの鋭い指摘はもちろんその通りだと筆者は想いつつも、オマージュの元ネタである本人たち……古舘の言葉を借りれば“本物”たちと対面し、彼らとともに活動をするほどとなったことも事実である。 レオスの場合、「VTuberとしてエンタメを生み出していこう」というスタンスをすこしずつ尖らせ、にじさんじの影響力が年々影響力を増していったアッパーなムードにピタリとハマったと評して良いだろう。 そして、レオスのパワフルな“一発カマしたろう”というスピリットは、その後後輩にも伝授していくこととなる。2023年2月3日に配信されたにじさんじ5周年記念配信において、先輩・椎名唯華と当時デビュー間もない獅子堂あかりとの3人でチームを組んだ際、彼は獅子堂ににじさんじ特有の悪ふざけ・ボケのカマし方を獅子堂に伝えたようだ。 「『初めのうちにギャグ路線でいくと次もそれを期待されちゃって、大変になっちゃうかなと思うんですよ』って獅子堂がいってたら、『そんなんじゃダメですよ! 1発かましとかないと!』ってレオスが言ってて、熱かったね。」(椎名) 「あかり的には、レオス先輩はご挨拶した先輩の中で良い意味でいちばんイカれてる先輩だった。質問をすると想像の上を“行き過ぎてる”答えが返ってくる。『こんな感じでいいですかね?』って聞くと『そんなんじゃダメだ』って言われる。結局、それ(教えてもらって挑戦したこと)が面白くウケてたからね、あかりは甘かった」(獅子堂) そんなレオスは現在、テレビ朝日の深夜番組『金曜日のメタバース』に新レギュラーメンバーとして出演、番組内の新たな編成・新セットに合わせる形でその存在感を示している。VTuberが深夜番組とはいえテレビでレギュラーを張る時代になるなんて……と、一昔前ならば想像もつかない出来事に驚いたファンも多いだろう。 持ち前のエッジさ・パッション・ハイエナジーで、エンタメの聖地ともいえるテレビ番組の世界へと達したレオス・ヴィンセント。2024年、彼は本物との邂逅と対峙を経て、VTuber~バーチャルタレントの限界・可能性を拡張するエンターテイナーへと成長を遂げつつあるようだ。
草野虹