AI導入が進む業界は生産性が急上昇、PwCリポート
国際会計事務所、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)がこのほどまとめたリポートによると、AI(人工知能)を積極的に導入している企業の労働生産性は、そうでない企業に比べてほぼ5倍の速さで向上していることが分かった。この結果は、AIが経済全体に大きな好影響を与える可能性を示唆していると、英ロイター通信は報じている。 ■ AI導入進む業界、生産性4.3%向上 調査では、2018年から2022年までのデータを分析し、AI導入が進む業界とそうでない業界の生産性を比較した。 ・AI導入が進む業界:専門・金融サービス、情報技術(IT) ・AI導入が遅れている業界:建設、製造、小売、食品、運輸 この結果、AI導入が進む業界の生産性は4.3%向上したのに対し、導入が遅れている業界は0.9%の伸びにとどまった。加えて、AI関連の求人広告の増加率と生産性向上率の相関関係も確認された。このデータは、AIが停滞していた生産性レベルを押し上げ、経済成長、賃金上昇、生活水準向上に寄与する可能性があることを示しているという。 PwCグローバルマーケットおよび税務・法務サービス部門トップのキャロル・スタビングス氏は「生産性の高いセクターでは、AIスキルを持っている人の求人件数伸び率が高い。これらセクターの生産性向上にAIが寄与していることを示している」と指摘する。 PwCのこのリポートでは、世界の富裕国15カ国の5億件以上の求人広告を追跡・分析したほか、経済協力開発機構(OECD)のデータを活用した。AIスキルを必要とする職種(AI専門家、非専門家を問わず)は、米国で25%、英国で14%の賃金増加があることも分かった。このことは、企業がAIスキルに価値を見いだしていることを示している。
■ PwC「AIの課題は変化の速さ」 その一方で、PwCのスタビングス氏は、「AI、特に生成AIの課題は、変化の速さだ」ともコメントしている。 これに先立つ24年5月13日、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は、スイス・チューリヒで開催されたイベントで、AIがグローバルな労働市場に「津波のように」襲いかかっているとの考えを示した。今後2年間で先進国における60%の仕事、世界全体の40%の仕事に影響を与える可能性があるという(ロイター通信の記事)。 ゲオルギエワ氏は「人々や企業が(AIによる社会の変化に)備える時間はほとんど残されていない」とし、「うまく管理すれば、生産性が飛躍的に向上する可能性があるが、誤情報の増加や、もちろん社会の不平等拡大にもつながる可能性がある」と強調した。 ■ 「AIが職を奪う」、欧州で規制求める声 こうした懸念は世界中に広がっているようだ。スペインIE大学の研究機関「センター・フォー・ザ・ガバナンス・オブ・チェンジ(CGC)」が調査したところ、欧州では大半の人が政府によるAI規制を求めていることが分かった。 それによると、「AI技術が雇用の安定に及ぼす影響を軽減するために規制が必要だ」と考えた人は68%に上った。その人数は、CGCが22年に実施した同様の調査から18%増加した。IE大学サイエンススクール学部長のイクラク・シドゥ氏は「最も一般的な懸念は、失業の恐れだ」と指摘。米オープンAIの「Chat(チャット)GPT」や米グーグルの「Gemini(ジェミニ)」といったサービスの登場によって、生成AIに対する規制の要望が一段と高まっているという。
小久保 重信