あなたは先祖代々の墓を“処分”できるか? 関心高まる「墓じまい」とは
「お墓を処分する」実際に何をすればいいのか
ただ、一言で「墓じまい」といっても、その詳しい方法はあまり知られていません。実際に何をする必要があるのでしょうか。プレゼンテーションを行った石井 靖さんに詳しいお話を伺ってみました。 石井さんによると、墓じまいとは「お墓から遺骨を取り出し」「墓石を撤去・処分し更地に戻し」「遺骨を新たな場所に埋葬する」という一連の手順のこと。遺骨を取り出すためには、お墓がある自治体から「改葬許可証明書」という許可書を取得しなければならず、そのためにはお墓を管理する墓地や寺院が発行する「埋葬許可証明書」と移転先の墓地が発行する「受入証明書」という2つの書面が必要になるといいます。勝手に遺骨を取り出してお墓を処分してはいけない仕組みなのです。必要な行政手続きが完了して初めて、お墓を処分することができるようになります。
ここで気になるのは、取り出した遺骨はどうするのかという点。上述の通り、遺骨を取り出すためには必ず移転先を決めなければなりません。その方法にはお寺が遺骨を永久に管理して将来的には合葬する「永代供養墓」や「納骨堂」への埋葬、墓地の中で墓石ではなく樹木のそばに遺骨を埋葬する「樹木葬」、そして海などに遺骨を撒く「散骨」といったもの。そして、最近では夫婦両家のお墓をひとつにまとめる「両家墓」も増加しているのだといいます。「今後の供養をどのように行っていくかという視点で、次の埋葬方法を選ぶことが重要だ」(石井さん)。
墓じまいで後悔しないために、事務手続き以上に重要な準備とは
しかし石井さんは、墓じまいをする上で重要なのはこうした事務手続きだけではないといいます。 ひとつは、お墓を長年管理してきた寺院への配慮だといいます。「地方の寺院にとって、檀家離れ(離檀)は死活問題。適当な気持ちで墓じまいを伝えるだけでは後々トラブルになる場合もあるので、しっかりと墓じまいの理由や目的を説明して誠意と(これまで供養してくれた)感謝の意をもって対応すべき」と石井さんは説明します。また同じように、故人と縁のある親戚への説明と合意形成も重要だといいます。「墓じまいをしたあとに、それを知らなかった親戚から叱責されトラブルになるケースもある」(石井さん)。 加えて、墓石を処分する際の業者選びも重要だと石井さんは説明します。墓じまいをする際の墓石の処分は、一般的に解体業者が行うことが多いそうですが、中には作業中に近隣の墓石を傷つけてしまったり、悪質な業者の中には引き取った墓石を不法投棄してしまったりするケースもあるのだとか。「中には、墓石を神社やお寺に寄贈してタイルなどに再利用するケースもあるが、基本的に墓石の取り扱いは専門の墓石業者に依頼するのが適切ではないか」(石井さん)。 そして何よりも重要なのは、“自分自身の心のケア”だと石井さんは説明します。「墓じまいをして後悔しないために、遺骨の次の安置場所を考えることは非常に重要。例えば、墓じまいをして遺骨を散骨を行い、その後“どこに手を合わせれば故人のことを感じられるのかわからない”と心の拠り所を失ってしまったケースもある」と石井さん。石井さんによると、こうしたニーズに対して同社では処分した墓石をプレートにして家に飾ったり、遺骨の一部を小さいカプセルに入れて自宅の仏壇に安置できる商品を提供しているのだそうです。「遺骨の一部を自宅など別の場所に保管するためには、(墓地の管理者が発行する)分骨証明書があれば行政手続き的には問題ない」(石井さん)。 大事な個人の仏を無縁にしないために行う墓じまいによって、お寺や親戚に迷惑を掛けたり、自分自身が故人との縁を失ってしまうことのないように、どうすれば故人のことを末永く想える形ができるかを考えて墓じまいを行う必要があるというのが、石井さんの考えです。