落語家・桂ざこばさん 70を過ぎてもヤンチャな少年のような笑顔が素敵だった〝人情家〟 嫌だった「アイロンみたいなやつ」
【ドクター和のニッポン臨終図巻】 訃報の記事に「人情家の落語家」という言葉を見つけました。文字通り、情けに厚い人だったエピソードがたくさん並んでいました。 【写真】急死の桂ざこばさんと娘の関口まい 上方落語の重鎮的存在、桂ざこばさんが6月12日に大阪府吹田市のご自宅で亡くなりました。享年76。死因は「ぜんそく」との発表です。僕は2017年、この人と大阪のテレビ番組『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)で共演したことがあります。医者がたくさん呼ばれた医療特集だったのですが、テーマが尊厳死に及んだとき、ざこばさんは、こんなことを仰いました。 「僕の心臓が止まったらアイロンみたいなやつで生き返らせんでほしい。せっかく死んでいるのにドカンドカン電気ショックなんてやられたくない。なあ?長尾先生」 アイロンみたいなやつ、というのはAED(自動体外式除細動器)のことですね。この人とは気が合うなあと番組収録後も、楽屋で意気投合し、いろいろお話をさせていただきました。しかし、食事に誘いたいと思っていた矢先に、ざこばさんは脳梗塞で倒れて入院。 これを機に長年吸い続けていたタバコも断ち、その後、自宅療養とリハビリを続け見事高座に復帰されました。 しかし復帰後も、持病のぜんそくに悩まされ、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を併発していると明かしていました。このような病態は喘息(ぜんそく)とCOPDのオーバーラップ(Asthma and COPD Overlap :ACO)と呼ばれています。オーバーラップの人は、ぜんそく、あるいはCOPD単独の人に比べて、咳(せき)や痰(たん)、呼吸困難になる頻度が高く、予後が不良です。 ざこばさんの死因がぜんそくとの報道に「ぜんそくで死ぬことなんてあるの?」と首を傾(かし)げた人も多くいらっしゃるでしょう。確かに昔は、ぜんそくで命を落とす人が少なからずいました。しかし20年ほど前に、良い治療薬ができたこともあり、亡くなる人は急減しています。報道を見る限り、ざこばさんの場合は、COPDの要因が大きいように感じました。 COPDの終末期は在宅医療の管理が難しいことが多く、呼吸困難になってQOLが下がり、救急車で搬送されるケースが多々あります。その苦痛は肺がんの最期を上回ることが多く、病院でも十分な緩和ケアが難しいと言われます。