ロックの詩人による自由で叙情的な音世界…浅井健一さんが新アルバム、「歌詞にユーモアあってポップ」
ロックミュージシャン浅井健一がソロ9作目の新アルバム「OVER HEAD POP」(ソニー)を出した。浅井いわく「ポップなアルバム」は、より自由な言葉とともに、激しく叙情的な音世界も際立つ快作だ。(北川洋平)
バンドBLANKEY JET CITY(BJC)等でロック史に名を刻む存在だけに、表題の「POP」に意表をつかれるが、「歌詞にユーモアがあってポップなんだわ。ポップな作品を作り込んでこなかったから、今までにない可能性が見えた」と手応えを語る。
冒頭曲「Fantasy」は、〈この国の税金って めっちゃんこ 高いね〉や〈AIってよく聞くね すごいのか チープすぎるのか そのうちわかるわ〉と現実を切り取る。そうした中に、<Fantasy>という軟らかな言葉や開放的なサビの旋律が、曲をポップに彩る。
不条理や権力に抗うロックを感じさせつつ、ユーモアも利かせる。「ストレートに歌って攻撃的になるより、こうやった方が皆も聴いてくれるんじゃないかなって」
「Calm Lula」という曲は、〈音で熱くなる それが愛なのさ それは生きること〉という言葉に引きつけられる。「世の中に格好いい音楽があってくれて本当によかったし、それで俺バンド始めた。音楽は人の心を変えられるからさ。そこら辺を歌ったんだけどね」と、音楽観をのぞかせる。
歌とギターの浅井は10曲のうち9曲で、気鋭の宇野剛史のベース、小林瞳のドラムとぶつかり合う。ポップと掲げつつ音像は生々しく、インスト曲「あおるなよ」も熱くしびれるサウンドだ。
最終曲「けっして」は、ベテランのベース仲田憲市、ドラム椎野恭一と共演。ギターのアルペジオ(分散和音)に導かれ、繊細な心情や海辺の美しい光景を歌う。〈前だけ見て 歩め〉といった言葉が印象的だが、詞の中でそれが全面的に肯定されるのではなく、自然の美しさに全て包み込まれていくような余韻を残す。ロック界随一の詩人による深みが際立つ。