唯一の特養閉園、働き手不足は訪問介護やデイサービスの現場も蝕む 「最期まで地元で暮らしたい」…ささやかな願いすらハードル高まる過疎高齢化が進む町
15日は「老人の日」。地元に最期まで住み続けたい-。そう願う高齢者も少なくないだろう。だが、人口減少や働き手不足を背景に地方の介護施設の経営は厳しさを増している。鹿児島県南大隅町佐多地区では今春、唯一の特別養護老人ホームが閉園した。現場を訪ねた。 【写真】南大隅町の位置を地図で確認する
根占地区の町役場から車で30分ほどの町佐多山村交流センター。8月上旬、高齢の男女12人が言葉遊びを楽しんでいた。入浴や食事、レクリエーションを提供する「デイサービスみなみおおすみ」だ。週1回通う那波ミキさん(96)は「皆の楽しい顔を見ながら話をするのが好き。佐多で生まれ育った昔からの顔なじみも多い」と笑顔を見せる。 鹿屋市でデイサービス事業を手掛ける橋元洋介さん(44)が昨年11月から運営する。閉園した特養「真寿園」が同年8月末でデイサービスを中止したのを受け町から開設を打診された。 「出身地なので力になりたかった」と橋元さん。町が場所を提供、スタッフも園の元職員などを確保でき決断した。利用登録者は50人。独居者が多く、「ありがとな」「ここは閉じんでね」と感謝されたという。 ■□■ 1989年に開所した真寿園は最大60床で、地区住民を受け入れてきた。運営していた社会福祉法人などによると、閉園は人手不足が主な原因。特養は1年以上前から新規受け入れを止めていた。町介護福祉課の中之浦伸一課長は「続けてほしかったが、法人の判断で仕方がない」と話す。
常時介護が必要な特養の入所者11人は全員転園した。要介護3の80代の母親を預けていた同町の男性(57)に連絡があったのは閉鎖の約1カ月前。夫婦共働きのため慌てたが、近くの自治体の施設に空きが見つかった。「運がよかった。地区外の施設のショートステイを使いながら空きを待つ覚悟もした」と明かす。 人手不足は訪問介護事業でも顕在化、町と3事業所が事業の一元化に向けて協議を始めた。真寿園の開所時から働いてきた元施設長は「佐多で長く暮らす高齢者は、ここに住み続けたい気持ちが強い。サービスが細っていけば、そんな思いの高齢者はどうすればいいのか」。ため息は重い。 ■□■ 厚生労働省によると、2022年度の県内の介護職員は約3万3000人。40年度は約3万8000人必要だが、現状では8000人不足する見通しだ。 一方、介護施設は厳しい運営が続く。全国老人福祉施設協議会(東京)の22年度収支調査では、特養施設の62%が赤字だった。
「デイサービスみなみおおすみ」では、送迎に車で片道40分以上かかる利用者が少なくない。燃料費や人件費に加え、物価高騰で食費のやりくりにも頭を悩ます。橋元さんは「地域の実情に応じて職員の配置基準緩和など、事業が存続できる仕組みを考えてほしい」と話す。 鹿児島女子短期大学の久留須直也准教授(高齢者福祉)は「高齢化と労働人口の激減は、南大隅だけの問題ではない。何も手を打たなければ、破たんする事業所は確実に増える。ICT(情報通信技術)導入や業務の機能分化、外国人の活用を積極的に進める必要がある」と訴える。
南日本新聞 | 鹿児島