シリア暫定政権の指導者、写真求めた女性に髪を覆うよう指示 保守派もリベラル派も批判
シリアの暫定政府の指導者アフメド・アル・シャラア氏が、写真を撮る際に若い女性に髪を覆うよう仕草で促したことが、インターネット上で議論を呼んでいる。アル・シャラア氏はBBCとのインタビューで、こうした批判を一蹴した(アル・シャラア氏は今月初めまで「アブ・モハメド・アル・ジョラニ」を通称として名乗っていた)。 シリアをめぐっては、バッシャール・アル・アサド政権を反体制派が打倒した今、将来の方向性についてさまざまな憶測がしきりに飛び交っている。そうした状況での出来事だけに、リベラル派と保守派の両方が批判している。 リベラル派は、イスラム教スンニ派の「ハヤト・タハリール・アル・シャーム(HTS、「シャーム解放機構」の意味)」の指導者が、女性に髪を覆うよう求めたことを、シリアにイスラム主義体制を導入しようとする兆候だと見なした。 一方で強硬な保守派は、そもそも女性と一緒の写真撮影に同意したことを批判している。 アル・シャラア氏はBBCのジェレミー・ボウエン国際編集長とのインタビューで、「私は彼女に強制していない。しかし、これは私の個人的な自由だ。私の写真は、私に合った形で撮影してもらいたい」と説明した。 一緒に写真を撮ったレア・ケイララ氏も、髪を覆うよう求められたことについて気にしていないと述べた。 ケイララ氏は、「優しく父親のような仕草」で頼まれたとのだと説明。「指導者は、本人が適切だと思う方法で表現される権利がある」と思うと話した。 しかしこの出来事は、宗教的に多様なシリアで、将来の指導者が国民に支持を求め、国民を団結させていくにあたり、どういう難問に直面し得るかを示す結果となった。 シリアではスンニ派ムスリム(イスラム教徒)が人口の大多数を占めており、残りはイスラム教アラウィ派、ドゥルーズ派、イスマイル派、そしてキリスト教徒に分かれている。 また、アサド前大統領に反抗していたさまざまな政治的および武装グループにも、世俗的な民主主義を望む者もいれば、イスラム法に基づく統治を望む者もいるなど、幅広い意見が存在している。 かつてアルカイダ系だったHTSは、2017年に反政府勢力の拠点だった北西部イドリブ県を掌握した際、厳格な行動規範と服装規定を導入した。しかし近年は世間の批判を受け、こうした規定を撤廃した。 イスラム教の聖典クルアーンは、男女問わずムスリムに対して慎ましい服装をするよう教えている。 男性の「慎ましさ」は、へそから膝までの部分を覆うことと解釈されている。女性の場合は、親族や配偶者でない男性の前では、顔と手、足以外を覆うことが一般的とされている。 ケイララ氏は今月10日、首都ダマスカスのメッゼ地区を視察していたアル・シャラア氏に、写真を撮ってほしいと頼んだ。 アル・シャラア氏は同意する前に、髪を覆うようケイララ氏にジェスチャーをした。ケイララ氏はそれに従ってフードをかぶり、アル・シャラア氏の隣に立って写真を撮った。 この出来事を撮影した多くの動画や写真がソーシャルメディアで拡散され、多くの一般ユーザーやコメンテーターが強く反発した。 リベラル派や非保守的な見解の人々は、HTSのもとでシリア政府が今後、いっそう保守的になり、たとえば女性全員にヒジャブ(頭髪を覆う布)を着用させるのではないかと恐れているだけに、今回の出来事を懸念している。 フランス24のアラビア語チャンネルは、「シリアはイスラム主義統治に向かっているのか」という見出しでこの出来事を取り上げた。 さらに厳しい非難の声もある。「我々は一人の独裁者を、反動的な独裁者に置き換えたのだ」と批判するシリア人ジャーナリストもいる。 ソーシャルメディアでは、「超過激派」が権力を握ることを警告する意見も出ている。また、「自由な女性に保守的な外見を強制する」ことを非難する声も上がった。 ■保守派は写真自体を批判 これとは逆にイスラム主義の強硬派は、そもそもアル・シャラア氏が若い女性といるところを撮影され、写真に撮られたことを批判した。 ケイララ氏を「ムタバリジャ」と呼ぶ人もいた。これは、慎ましくない服装や化粧をしていると見なされる女性に対する、否定的な表現だ。 このような強硬派には、宗教者や影響力のあるコメンテーターなどが含まれている。その人たちの意見はシリアに焦点を当てた保守的なオンライン・コミュニティーで共有され、読まれることが多い。また、HTSの支持者や、場合によっては関係者にも届く可能性もある。 強硬派の多くはシリア国内に拠点を置き、主にHTSが支配していたイドリブ県にいるようだ。かつてHTSの一員として活動していた人も含まれる。 こうした人々は、血縁関係などがない男女が親しく交流することは宗教的に許されないと主張し、アル・シャラア氏が「虚栄心から世間の注目」を集めようとしており、厳格な宗教教義に反する「寛容」の姿勢を示したと非難した。 「イドリブから」というテレグラムチャンネルには、HTSの指導者はイドリブ県にあるHTS刑務所からの囚人釈放の要求に対処するよりも、「若い女性と自撮り写真を撮るのに忙しい」というコメントがあった。 写真に反対する声を上げた保守派の多くは、過去にも政治的および宗教的な理由でアル・シャラア氏を批判しており、その中にはHTSを離れた宗教者も含まれている。 (英語記事 Syria rebel leader dismisses controversy over photo with woman )
(c) BBC News