NIGOが語る、ケンゾーの現在地
ケンゾーの2025年春夏コレクションの発表前日、アトリエで最終調整を行うNIGOを直撃した。 【写真の記事を読む】ケンゾーの2025年春夏コレクションの発表前日、アトリエで最終調整を行うNIGOを直撃した。
NIGOが手掛けるケンゾー （KENZO）が、2025年春夏コレクションをパリ1区に位置するパレ・ロワイヤルの庭園で開催した。ここからほど近いギャラリー・ヴィヴィエンヌは、創業者の高田賢三が初めてパリでショーを行い、最初のショップを開いた地であり、NIGOがケンゾーに参画後、初のショーを行った場所だ。そんなメゾンと縁の深いエリアで催されたNIGOによる6度目のランウェイは、“KENZO PARIS 1970”の文字が入った竹林カモフラージュ柄のトレンチコートで開幕。VERDYとのコラボをはじめ、フィッシングバッグ、新作の「KENZO-Pace II」スニーカー、そして草履のようなシューズ「JOJO」などのアイコニックなアイテムが多数登場し、前半はメンズ、後半はウィメンズのルックで構成。フィナーレに登場したNIGOは、盟友のファレル・ウィリアムスと握手とハグを交わし、豪華なセレブリティを含むオーディエンスたちを沸かせた。 ショー前日の6月18日（仏現地時間）の昼過ぎ、『GQ JAPAN』はNIGOにインタビューする機会を得た。パリ2区のヴィヴィエンヌ通りにあるケンゾーのアトリエに足を踏み入れると、ラックに掛かった大量のウェアとアクセサリー、そして忙しなく動き回るスタッフたちが視界に入り、その奥に居たクリエイティブ・ディレクターのNIGOは、真剣な面持ちでショーの最終調整を行っていた。そんな彼に、最新コレクションのコンセプトについて訊くと「これまで通り、具体的なテーマは決めていません」と言い切り、「日本橋の榛原（はいばら）さんという紙屋さんに売っていた、折り紙の鮮やかな色彩に影響を受けました」と続けた。 コレクションに登場したケンゾー ピオニー柄は、高田賢三が気に入っていた牡丹の花のプリントを蛍光色で再構築したものだ。NIGOは、アトリエでモデルが着用するコートを指差し、ピオニー柄をシワ感のある生地にプリントし、そこに着物の袖のようなディテールを組み合わせているのだと解説した。 「アーカイブをそのまま真似することはしません。イメージボードやキーワードをデザインチームに共有し、彼らがリサーチしアーカイブをピックアップしてくれるんです。それらを参照し、さまざまな要素をミックスして作り上げています」 着物や袴、刺し子などのいかにも日本らしいエッセンスは、ここ数年のケンゾーを語る上で欠かせない。今シーズンは、水墨画にインスパイアされたグラフィックや江戸時代の伝統的なナップサックをモダンにアレンジしたバックパックなどが披露された。 「賢三さんも僕も日本人ですし、パリで発表するからこそ日本の文化や和服のディテールを意識的に取り入れています。日本は、良いものや面白いものを組み合わせて編集するのにも長けていると思うので、そこもしっかりと前面に出していきたいですね」 6シーズン目を迎えて ケンゾーのアーティスティックディレクターに任命され約3年が経った今、NIGOは就任当初、畑違いの環境に戸惑うことばかりだったと吐露した。 「コロナ禍で仕事がはじまり、最初は苦労ばかりでしたね。やっと、チームが僕のことを理解してくれて良い会話ができるようになってきました。デザインチームに色んなことを聞いたり話したりするデザイナーは少ないらしいんですよ。僕はみんなが現場で楽しく働いて、その雰囲気が商品に出る方が良いと思っているんです」 その言葉通り、アトリエ内には、ショー直前の緊張感とともにどこか居心地の良いムードも漂っていた。チームとの信頼関係は、月に1、2度パリに1週間ほど滞在しアトリエに籠り、集中して仕事をこなすルーティンによって築かれてきた。その間、フィッティングとデザインの修正を何度も繰り返す。そのプロセスは、ヒューマンメイドをはじめとするこれまでのNIGOの仕事とは大きく異なるそうだ。 「例えばアイテムの色は最後に決めることが多かったんですが、ケンゾーでは逆。まず色から決めるんです。当初『最初に決めるのはなぜ？』と思っていたんですが、膨大な商品の構成やランウェイの流れを決めるには色がとても重要だと気づかされました。ここでの仕事は新たに学ぶことも多いですね」 当初ファッションショーの意義にも懐疑的だったNIGOだが、発表するたび「様々な評価がついてくる点」に面白さを感じるようになったという。そして、今では「パリのいわゆる“王道”のファッションの在り方」を楽しんでいると述べた。 コラボレーションとスニーカー 今シーズン注目すべきトピックのひとつがVERDYとの2度目のコラボレーション。前シーズンのタイポグラフィーから打って変わって、キャラクターにフォーカスした。このタッグは、NIGOと、彼によるシェアアトリエ「オツモセンター」にアトリエを構えるVERDYとの「日本で会う時間がいちばん長い」という関係性あってこそだ。 稀代のコラボレーターであるNIGOだが、コラボを頻発することに対しては消極的。ケンゾーではレギュラーものをブラッシュアップして売っていきたいという。特に力を入れて開発しているのが、今やケンゾーを象徴するアイテムのひとつになったスニーカーだ。 「スニーカー畑で育ってきたから、ほかのラグジュアリーメゾンとは異なるアプローチで定番を作りたかったんです。就任してすぐに取り掛かったんですが、発売までには1年以上かかってしまいました」 そして、NIGOは「普段は白いスニーカーしか履かないんですが、黒が人気なんですよね」とはにかんだ。ランニングシューズ調の「KENZO-Pace II」だけでなく、スケートシューズやベーシックなタイプのフットウェアもラインナップ。「自分の中でのトレンドがあるので、その時のムードに合わせて履けるよう、いくつかの選択肢を用意しているんです」 「僕のファッションの気分は、その時よく聴いている音楽に影響されていると思います」とNIGOは言った。彼と高田賢三の共通点のひとつは、音楽と密接な関係にあることだ。 「賢三さんは、ランウェイショーに初めて音楽を取り入れたデザイナーとも言われているんです。だからケンゾーでは、音楽を重要視していますね」 NIGOは、ファレル・ウィリアムスを筆頭に、エイサップ・ロッキーやタイラー・ザ・クリエイターらも参加した『I Know NIGO』（2022）の続編となるアルバムを9月にリリース予定だ。今回のショーでは、新作に参加するプロデューサーWhoJiggiによるオリジナルのサウンドトラックが流れた。 「アルバムを制作する中で彼のサウンドが気に入ったんです。セクシードリルという、ヒップホップのドリルのジャンルの中でも特にメロディアスな楽曲を作る若いプロデューサーですね」 短い取材の最後に、4年目を迎えるNIGOに今後の展望を尋ねると「おそらくこの先もテーマ性をはっきりとは打ち出さないので、マンネリにならないようにしていきたいです」と応えた。そして、NIGOらしく冷静沈着に「とはいえ大きく変える気はないんですが、賢三さんのアーカイブはもちろん、僕らしさと日本のテイストの要素もいれつつ続けていきたいです」と付け加え、インタビューを締め括った。
