ビール大手が「体験型」の仕掛け 「とりあえずビール」でアルコール離れの食い止め狙う
ビール大手各社がビールに特化したイベントを相次ぎ開いている。人口減少や若い世代のアルコール離れが進む中、直営店舗などでさまざまな「体験型」の仕掛けを施し、昨年10月の酒税法改正で税率が下がったビールの売り上げ増加を目指す。「とりあえずビール」などと1杯目にビールを注文する習慣が残り、酒席の入り口となりやすいビールをてこ入れし、アルコール市場全体の拡大も狙う。 【写真】ビールの泡に文字や画像を描く「泡アート」 ■20代の飲酒習慣、1割にも満たず 国税庁の令和5年6月のまとめによると、3年度の成人1人当たりのお酒の消費量は約74リットル。約30年前のピーク時と比べ、約25%減少した。特に若者のアルコール離れは顕著で、厚労省の元年の調査では、20代で週3回以上、1日当たり1合以上飲む習慣のある人は7・8%しかいなかった。40代~50代は25%以上あり、世代間の格差が広がっている。 酒文化研究所の山田聡昭室長は、若者のアルコール離れが進んだ理由の一つに、ライフスタイルの変化を挙げる。「共働きが主流となり、男性も仕事から帰ったら飲んで寝るだけでは済まない。健康意識の高まりや、酔って醜態をさらしたくないという意識もあると思うが、(飲酒せずに)しなければならないことが増えた。飲むよりも楽しいこともたくさんある」と指摘する。 ■「五感」を刺激する各社の施策 アルコール離れを食い止めようと、ビール各社が工夫を凝らす。 「普通のことをしても目に留まらない。わくわくすることを提供したい」と語るのはアサヒビール、ビールマーケティング部の倉田剛士さんだ。同社は4月25日、主力ビール「スーパードライ」の世界に没入することをテーマにした店舗を東京・銀座にオープンさせた。 店舗の2階では、同社の茨城(茨城県守谷市)、吹田工場(大阪府吹田市)内のミュージアムで人気となっている「スーパードライ ゴーライド」を展開。大画面の映像などを駆使し、来店者が製造中のビール缶に乗っているような感覚を味わえる。店内では、その他にも、機械でビールの泡に文字や絵を描く「泡アート」や、樽生ビールを注ぐ「サーブ体験」も楽しめる。 一方、サッポロビールは4月3日、高級ビールブランド「エビスビール」発祥の地である東京・恵比寿に、でき立てのエビスビールを味わえる「YEBISU BREWERY TOKYO」をオープンさせた。施設にはビールの製造設備を新たに設け、同社が恵比寿工場を閉鎖した昭和63年6月以来、約36年ぶりに現地でビール製造を再開する。ここでしか味わうことのできないビールを提供することで、新たなファンを取り込み「恵比寿=ビールの街」というイメージを浸透させようとしている。
キリンビールは、クラフトビールを気軽に楽しめる〝体験の場〟として、5月30日に東京・代官山に直営の体験型ブルワリー併設店舗「スプリングバレーブルワリー東京」をリニューアルオープンさせる。詳細は明らかにしていないが、同社は「作り手のこだわりや個性が伝わる多種多彩なクラフトビールや食とのペアリングは継続しつつ、音楽やアートとのコラボなど、多方面から楽しさを伝えたい」としている。(村田幸子)