東海3県初の星野リゾート誕生…『界 奥飛騨』が目指す地域文化や伝統の再発信 “曲木”が施設の一部に
■コロナ明けても続く厳しい状況…星野リゾートが挑む地域の課題
旅館のクオリティをあげていくだけでなく、須永さんにはもう一つ、取り組んでいかなくてはならないことがあるという。 須永総支配人: 日本屈指の豊富な湯量と湧出量を誇ってはいるんですけれども、どうしても認知度が低いというところを課題だと思っておりまして、どうPRをして、お客様に来ていただくまでの地域にするかというところが、今後の伸びしろだと捉えております。 平湯温泉は江戸時代末期の書物にもその存在が記されるほど、奥飛騨温泉郷で最も歴史ある温泉地だったが、今でも観光需要は好調とはいえない。 1992年に114万人に達した奥飛騨温泉郷の年間宿泊者数は、2023年は45万人に減少した。コロナ禍が明けて回復傾向にあるものの、箱根や熱海に比べると厳しい状況が続いている。 そんな奥飛騨を選んだ理由を1年前、星野リゾートの代表が明かしていた。 星野リゾートの星野佳路代表: 自然環境、温泉の湯量の豊富さが素晴らしいんですよね。世界の旅行市場のノウハウをしっかりと導入することによって、資源があるところは必ず将来伸びてくると思っています。もっと今まで知っていた日本ではない場所の魅力を上げていく。 「界 奥飛騨」は、星野リゾートなどが設立した「観光活性化ファンド」が投資する第一号の案件で、事業継承が難しくなった地方の宿泊業に、ノウハウという形で再び息を吹き込み、新たに運営を引き継ぐというものだ。 「界 奥飛騨」には、前の主の置き土産が残されていた。 須永総支配人: 「界 奥飛騨」には公道をはさんで4棟の公道になっておりまして、東館は元々既存の建物を改装して利用しておりますし、この石が元々私たちの施設になる前から、この場所にあったものを再利用しておりまして、そういったところも元々の旅館の思いを別の形で引き継いでおります。
■地域の文化や伝統の再発信への期待も…伝統の地場産業を施設やサービスの一部に
何もかも新しくするのではなく、地域に宿る息吹は残す。こうした連携は、観光面だけではない。 飛騨産業は「曲木(まげき)」を使った家具を手掛ける老舗メーカーで、創業104年を誇る。 「曲木」とは、木材を蒸して曲げて、乾燥させることで曲線を作り出す技法で、粘り強く折れにくい広葉樹のブナ材が豊富な飛騨地域で発展してきた。 飛騨産業の田村健志さん: 曲木をするということはこの繊維がカーブの通りに繊維がそろってくる。そういったことで、木材の強度自体が上がってくるということで、強い木材を作ることができる。 この曲木が「界 奥飛騨」の一部になっている。 客室には飛騨産業の家具が置かれ、曲木をモチーフにしたヘッドボードには、ブナやナラなど飛騨地域の広葉樹があしらわれている。 壁には飛騨春慶のウォールアートなども施され、「地域の伝統」を感じながら過ごすことができるようにした。 また、飛騨産業から直接研修を受け、職人の技術を学んだスタッフが「曲木体験」のアクティビティを宿泊客向けに行い、技と魅力を「伝える」ことにも一役買うという。 飛騨産業の田村さん: 飛騨地域全体が脚物家具の産地でありますので、アピールしていただけることは非常にうれしいことでありますので、できる限りの協力をして共に発展していければなと。(伝統を)絶やさずに続けていきたいとに考えています。 観光需要を上向かせることで、なり手不足を抱える地場産業にも光を。星野リゾートの進出は、地域の文化や伝統の再発信への期待も背負っている。 須永総支配人: 新たに需要を掘り起こしてお客様に来ていただくというところが、私たちの生業になると思っておりますので、どうしてもこれから持続的な観光産業を成り立たせていくためには、地域の皆様とも連携をしながら1泊ではなく2泊3泊と、奥飛騨温泉郷の湯めぐりであったり、豊富な自然を生かした滞在提案というのを、地域の方々としていきたいと思っております。 「知らなかった日本の魅力を」。星野リゾートの取り組みは、せわしない日本人の休暇の過ごし方への新たな提言にもなっている。 2024年9月13日放送 (東海テレビ)
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