『うち弁』向かい風を追い風に変える面白さ ムロツヨシのコメディ演技はフルスロットルに
『うちの弁護士は手がかかる』(フジテレビ系)が回を重ねるごとにますます面白くなってきている。言うなれば向かい風を追い風に変えているイメージだ。 【写真】シリアスな表情のムロツヨシ 既報の通りに主演のムロツヨシが10月11日より腹膜炎のため入院し、10月22日に仕事復帰を果たした。今のところ放送自体が休止ということはないが、撮影の方はかなりギリギリのようだ。その現状が視聴者にリアリティを持って伝えられたのが、10月27日放送の第3話ラストに流れた全く間に合っていない予告動画。その後、数日にわたって完成に向かっていく予告動画が順次SNSで公開されるという異例の事態となっている。 そんな波乱の1週間を経て、放送日の11月3日を迎えた第4話。冒頭、杏(平手友梨奈)が研修以外で担当したことのない強盗致死事件を所長の今日子(戸田恵子)から頼まれ、何も言えなくなっている杏に、蔵前(ムロツヨシ)が「経験という魚を掴む、いいチャンスだ」と声をかける。「~という魚」は、『キングオブコント2023』(TBS系)で優勝したお笑いコンビ・サルゴリラの決勝ネタであり、『キングオブコント2023』のオンエアは10月21日。これがムロのアドリブなのか、現場で採用することになったのかは定かでないが、新鮮なネタをドラマの中に瞬時に取り入れられようとする姿勢はユニークであり、ピンチをチャンスに変えようとする現場の雰囲気が感じ取れる。 プロデューサーの金城綾香のインタビューでは、劇中に登場する過去のフジテレビ作品のパロディは、ムロからの提案であることが明かされており、今後は他局のドラマが出てくることが予告されていたが、第4話からは『HERO』(フジテレビ系)や『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)だけでなく、『VIVANT』 (TBS系)や『24時間テレビ』(日本テレビ系)までもが登場している。さらに“和製アヴリル・ラヴィーン”といった若干古い例えは、蔵前と杏の世代間ギャップを効果的に生んでいる。 第2話から徐々に色濃くなってきたムロのコメディ演技は、退院後ということも相まってか、第4話では“ムロツヨシ劇場”と呼びたくなるほどにフルスロットルになってきている印象だ。今回のゲストである戸塚純貴とムロは『親バカ青春白書』(日本テレビ系)で共演していた間柄。戸塚のInstagramには「『親バカ青春白書』第9話観てください」と爽やかトーンで呼びかけるムロと戸塚のリールがアップされている。その延長として劇中でもふざけてしまいそうに思えるが、そこは逆にグッと堪えて、「自分の人生を生きてください」と蔵前が自身と似た境遇にいる木原(戸塚純貴)の背中を押すシーンは見事だった。 一方の杏は回を増すごとにそのポンコツっぷりがあらわになってきている。以前から迷子になったり、すぐに物を失くしたりと抜けている性格なことは明らかであったが、蔵前をはじめとする香澄法律事務所の同僚の名前を誰一人覚えていないというのは驚きだ。蔵前に持たされた手帳にその人の名前と特徴をメモしていく杏。それはほぼ“悪口ノート”に変貌していくことになるが、蔵前が「元マネージャー」で「人を見る目がある」ことは記憶することに成功。蔵前だけでなく山崎(松尾諭)や丸屋(酒向芳)の名前も覚え、コーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れているところを事務所の面々に見守られ、「偉い! 偉い!」と讃えられている姿は、もはや“赤ちゃん”である。裁判が終わるまでお預けになっていたグミを蔵前から渡されニコッと笑みを見せる杏。第4話では今日子を前に「あ………」と声にならない声を出す一幕もありながら、山崎から「弁護士失格だ」、姉のさくら(江口のりこ)から「弁護士を名乗る資格なんてないのにね」と言われ、遠くを見つめる表情のシーンもあった。 第5話の予告動画は当然間に合うわけもなく、ムロと平手友梨奈、松尾諭による写真を繋ぎ合わせた10秒の簡素な動画が流れた。「第5話は蔵前が緊急入院」と言われると冗談に聞こえないが、ギリギリの制作の中で、無理のない程度に、だけれど面白い作品を、と願うばかりだ。
渡辺彰浩