”Jリーグ最強の企画屋”に聞く「地域とスポーツのしあわせな関係」(上)
勝って愛されるか、愛されて勝つか
大枝 プロモーション部っていうもの自体が、ほかにはそんなにあるものではないですよね。 天野 最初からそういう名前ではなかったんですが、僕が知ってる限り、プロモーション部っていうのはフロンターレにしかないです。Jリーグの特徴として、営業、広報、運営という3本柱がありますが、その3つはそれぞれ役割が決まってるじゃないですか。みんな主の仕事をやりながらイベントを考えるので、すごく大変なんです。たとえば、昨年マリノスが「ユニホーム付きチケット」というのをやりましたが、あれを仕掛けたのは広報でした。FC東京は、何か仕掛けるのは運営がやっています。そこから発生した物は、一回はできても続かない。僕らはそうではなくて、スタジアムを楽しくするとか、クラブを愛してもらうための仕掛けをする最前線部隊がいることが大事だと思っています。選手をうまく活用して、試合以外でも、ホームタウンでいろんなことを仕掛けていく専門の部署が必要なんです。Jリーグの中では、残念ながらそういう考え方がまだクラブにないですね。 大枝 基本的には、やっていることは20年前から変わっていないんですね。 天野 最初はすっごく大変でした。年齢も若かったですし。でも僕は人に恵まれていて、99年、松本育夫監督(※後の富士通川崎スポーツマネジメント社長)と出会ったんですよね。育夫さんはすごく寛容な人で、その年はキャプテンが中西哲生さんで。 クラブづくりのポイントは、強化部の中で、監督、GM、キャプテンもしくは選手会長の3人を必ず落とすこと。この3人を口説けなかったら、選手を活用してクラブを愛される仕掛けが作れないんです。すごく大変なのは、その3者が代わった時です。本にも書きましたけど、相馬直樹監督から風間八宏監督に代わったときは、もうそのことで寝れませんでした。とにかく早くコンタクトをとって、僕のスタンスを分かってもらうっていうことをしました。監督室にも、アポを取ると堅くなるので、ちーすってアポ無しでよく行って(笑)。勝つクラブだったら必要ないけど、愛されるクラブをつくるなら、そこは崩せないと厳しい。 僕が考えていることは強化部の理解がないと一歩も進めません。ほかのクラブとの違いはそこなんです。なぜサッカー選手がそんな格好しなきゃいけないんだ、サッカーが本業なのにと。そこで戦わないといけないわけです。 前に、選手がこういう高い椅子に座ってトークショー1時間半やるんですと言ったら、選手はこういう椅子に座ると足に血が溜まってしまって、怪我の元になると言われて。選手、練習終わった後同じ格好で3時間パチンコ打ってましたから。パチンコが良くて何でトークショーがだめなんですかと。大体このチャレンジを、多くのクラブはやらない。強化部に嫌われたくないから。みんなそこを崩せない。 クラブの分かれ道はここなんです。試合に勝ってお客さんを集める、サッカーファンを作ることで成功していこうと考えるクラブと、スタジアムでの週末をみんなで楽しんでもらう空間にしていこう、クラブは街づくりの中心にスポーツを据えてやってくんだという考えのクラブと、ここで分かれるんです。勝って愛されるか、愛されて勝つかという思想の違いが、本当に大きくて、多くのクラブは勝つっていう方に行くから、僕はこの先行き詰まると思います。勝負事ですから、勝てなくなる時は来るでしょう。そういう時にどうするかっていうことを考えないと、僕は厳しいんじゃないかと。ただこれは口だけではだめなので、これだけ面白いことやってるのに、めちゃくちゃサッカー強いぞと、フロンターレのやり方で体現しないと。だから昨年勝って、証明したかったんですよ。 今回も監督が代わったじゃないですか。僕は、昨年のうちに、自分がいなくなる前にと、鬼木とサシで話しました。オニは「分かってます」と。それが(新体制発表会見での)「鬼木ボンバイエ」につながったわけです(笑)。とにかく僕らは絶対クラブを愛されるようにつくるプロだから、そこは僕らに委ねて、強化部はチームづくりに専念してくれと。2011年の相馬直樹の時には、同い年なんですけど、一年目の監督だったので、ホームタウン活動も結構気にしてたから、大変だったと思うんです。 ※下へ続く (齊藤真菜)