米国が国連軍司令部を拡大しようとする理由…朴槿恵元大統領も知っていた
クォン・ヒョクチョルの見えない安保
まず、簡単なクイズをひとつ解いてみよう。 (問題)京畿道平沢(ピョンテク)にある国連軍司令部は誰の指示を受けているか? (1)国連事務総長(2)国連安全保障理事会(3)米国統合参謀本部 (1)と(2)を選んだ人が多いが、正解は(3)だ。国連軍司令部は米国統合参謀本部の統制下にある。国連軍司令官は米国統合参謀本部から戦略指針と指示を受け取り、行政と軍需支援に限り、米太平洋司令官と直接連絡を取る。多くの人が国連軍司令部を国連の軍隊だと考えているが、現在の国連軍司令部の上部指揮系統には国連はいない。 2日、ドイツが国連軍司令部に18カ国目の加盟国として加わった。尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領はドイツの国連軍司令部の加盟を歓迎し、シン・ウォンシク国防部長官は韓国と国連軍司令部が北朝鮮の脅威に対応するための新たなパートナーを得たと強調した。 もともとドイツは2019年にも国連軍司令部に加盟しようとしたが、韓国政府の反対で実現しなかった。当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権はなぜ反対したのだろうか。保守メディアは、南北関係を重視した文在寅(ムン・ジェイン)政権が国連軍司令部の解体を主張する北朝鮮の顔色をみて反対したと主張する。しかし、文在寅政権の外交安保当局者は当時、単にドイツの加盟に反対しただけでなく、国連軍司令部の拡大・強化を執ように推進していた米国の要求にブレーキをかけたものだったと説明する。 米国は2014年から国連軍司令部の再活性化(UNC Revitalization)プログラムを通じて、国連軍司令部の組織・人材・機能を着実に拡大強化してきた。国連軍司令部、韓米連合司令部、在韓米軍司令部は、法的性格と任務はそれぞれ違うが、建物や仕事をする人に至るまでほとんど同じだった。 3つの司令部は、2018年6月までソウル市龍山(ヨンサン)の米軍基地内にあった同じ施設を指揮所として使っていた。人員もまた、韓米連合軍司令部の指揮部と参謀が国連軍司令部と在韓米軍司令部の職責のほとんどを兼務していたため、3つの司令部は「一つ屋根の下にいる家族」だった。 3つの司令部が京畿道平沢(ピョンテク)にある米軍基地に移り、韓米連合軍司令部は別の建物に移転した。 現在も米陸軍大将であるポール・ラカメラ在韓米軍司令官が、韓米連合司令部の司令官と国連軍司令部の司令官を兼務している。ビンセント・ブルックス元国連軍司令官は、韓国軍に国連軍司令部の地位を説明した際、「1本の木の幹から国連軍司令部、連合司令部、在韓米軍司令部という3本の枝が出てきた」という比喩を使った。 米国による国連軍司令部の再活性化への着手に伴い、在韓米軍参謀長が兼務していた国連軍司令部参謀長に別の米軍将軍が任命された。2018年からは国連軍司令部の副司令官は、米軍の代わりにカナダ、オーストラリア、英国の中将が担当している。国連軍司令部の勤務者も30~40人で2~3倍ほどに増えた。 2019年のドイツの国連軍司令部加盟論議は、国連軍司令部が人員を増やして規模を拡大している最中に起きた。米国は2019年に文在寅政権に伝えることなく国連軍司令部へのドイツ軍の連絡将校の派遣を受け入れようとしたが、韓国の反対で実現せずに終わった。 国連軍司令部が拡大強化されていたら、有事の際に韓国に味方する友軍が増えるはずなのに、なぜ文在寅政権はブレーキをかけたのだろうか。米国の一方的な国連軍司令部の強化が韓国の外交と安全保障に光と影を同時にもたらすためだ。 影は韓国の主権と戦略的な自律性の制約に対する懸念だ。 国連軍司令部は、朝鮮戦争の時代から行使していた韓国軍の作戦統制権を1978年に韓米連合軍司令部に委任してからは、力を大幅に失った。今でも国連軍司令部は司令部の要員が中心で、国連軍司令部の警備大隊(板門店(パンムンジョム)JSA警備部隊)と国連軍司令部の儀仗隊を除くと、戦闘兵力はほとんどない。 有名無実だという話まで聞こえていた国連軍司令部が、再活性化を通じてかつての戦闘司令部に回帰するのではないかという観測が出てきた。米国は、韓国軍に戦時作戦権を委譲してからも国連軍司令部を通じて韓国軍を統制するための準備作業をしているのではないか、という懸念も出てきた。具体的には、米国が中国との戦争に備えて、在韓米軍と韓国軍、戦時戦力を提供するすべての国の軍隊を指揮統制して中国と戦うことを目的として、国連軍司令部の改編を追求しているということだ。 朴槿恵(パク・クネ)政権も国連軍司令部の再活性化作業に異議を唱え、消極的だった。朴槿恵政権時代の2015年6月、国防部は国連軍司令部が目指すべき中長期の段階別の要望戦略を加えた「国連軍司令部パートナーシップ」を国連軍司令部に通知した。これに記されていた全般的な論理と流れは、国連軍司令部の再活性化に対する共感というより、米国が一方的に推進する国連軍司令部の再活性化政策に対する警戒心だった。当時の韓国国防部の要求を要約すれば、国連軍司令部は、新たな役割を担うのではなく「平時の停戦協定管理」と「有事の際の戦力提供」という本来の任務にのみ忠実であってほしいというものだった。韓国の最大の懸念は、国連軍司令部が拡大強化され、韓国作戦区域(KTO)の範囲を越えて周辺地域に拡大する可能性があるというものだった。韓国作戦区域は韓米連合司令官が軍事作戦のために朝鮮半島周辺に宣言する区域だが、領海だけでなく公海も含まれる。国連軍司令部の活動領域が朝鮮半島を逸脱し、アジア太平洋地域に拡大されることを警戒したのだ。 朴槿恵政権と文在寅政権とは違い、尹錫悦政権は国連軍司令部の強化を積極的に歓迎している。2023年8月10日に尹大統領は、国連軍司令部の主な職位者を招いた懇談会で「国連軍司令部は、朝鮮半島に戦争が勃発した場合、ただちに私たちの友邦軍の戦力を統合して韓米連合司令部に提供するなど、大韓民国を防衛する強力な力」だと強調した。この時、尹大統領は「朝鮮半島有事の際、国連軍司令部は新たな安保理決議がなくても、国連軍司令部の加盟国の戦力を即刻かつ自動的に提供する役割を果たしており、これが北朝鮮と彼らに追従する反国家勢力が、終戦宣言と連係して国連軍司令部の解体を絶えず主張している理由」だと述べた。 尹大統領は2023年6月28日、「韓国自由総連盟第69周年創立記念式典」の祝辞でも「歪曲された歴史意識、無責任な国家観を持っている反国家勢力は、核武装を高度化する北朝鮮共産集団に対して国連安保理制裁を解除するよう泣いて訴え、国連軍司令部を解体する終戦宣言の歌を歌い回った」として、「北朝鮮がふたたび侵略してくれば、国連軍司令部とその戦力が自動的に作動することを防ぐための終戦宣言の合唱だった」と述べた。 あらゆるものには光と影がある。政策には費用と効果が同時に存在する。尹大統領は国連軍司令部の光ばかりをみて、効果ばかりを強調する。尹大統領は、国連軍司令部が米国統合参謀本部の指揮を受ける組織、米国の利益に忠実な組織だということを再確認する必要がある。弾劾された朴槿恵大統領もこのことは知っていて、米国の一方的な国連軍司令部の再活性化に消極的だった。 クォン・ヒョクチョル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )