『マッチング』で描かれる情報化社会のリアルな恐怖…何度も観返したくなる映画たちの魅力に迫る
マッチングアプリを題材にしたリアルな恐怖で話題を呼んだ、土屋太鳳主演の新感覚サスペンススリラー『マッチング』(23)がいよいよBlu-ray&DVDで登場。多くの伏線がちりばめられた本作は、パッケージでじっくり楽しむにはぴったりの作品。その魅力をひも解いてみたい。 【写真を見る】同僚の勧めでマッチングアプリに登録したことで輪花に魔の手が忍び寄る… マッチングアプリで出会った“アプリ婚”夫婦の連続惨殺事件が世間を騒がすなか、恋愛に奥手なウェディングプランナーの輪花(土屋)はマッチングアプリ「Will Will」に登録した。ところがマッチングした相手の吐夢(佐久間大介)は、彼女にストーカーまがいの行為を開始。輪花は仕事を通して知り合った「Will Will」のプログラマーである影山(金子ノブアキ)に助けを求めるが、吐夢の行動はエスカレートし、やがて自宅にも出没し始める。警察が動きだすなか、輪花は自身の過去にまつわる衝撃的な事実を知らされる…。 ■身近だからこそ怖い!現代ならではのキーワードがテーマのスリラー いまや生活に欠かせないツールとして定着しているスマホやPC。コミュニケーション機能だけでなく、ショッピングやエンタメ、情報検索から各種手続きまで、仕事や日々の暮らしになくてはならない社会インフラと化している。小さなボディにはあらゆる情報が詰め込まれているため、便利な反面、そのデータが漏れ出せば持ち主の趣味趣向から暮らしぶりまで明かされる危険性も孕んでいる。いつ自分の身に降りかかってもおかしくないリアリティの高さが、スマホやPC、ネット、アプリを題材としたスリラーの人気の秘訣なのだ。 『スマホを落としただけなのに』(18)は、「リング」シリーズや『クロユリ団地』(13)の中田秀夫による監督作。恋人がタクシーにスマホを置き忘れたのをきっかけに、猟奇殺人犯のターゲットにされた女性の恐怖が描かれる。パスワードのハックに始まり、データの分析、行動監視、なりすましなど犯人はスマホの情報をフル活用。麻美(北川景子)が味わう不条理な恐怖だけでなく、犯人の視点を通してネット犯罪の様子もつぶさに描写されている。エンジニア出身の警察官、加賀谷(千葉雄大)が持てるITスキルを総動員し、犯人を追い詰めていくのも見どころ。心に闇を抱えた加賀谷が新たな殺人犯を追う『スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼』(20)、加賀谷がサイバーテロに挑む『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』(11月1日公開)とシリーズ3作が製作された。 サンダンス映画祭で観客賞を受賞した『search/サーチ』(18)は、行方不明になった娘を捜す父親の物語。娘は家出か、誘拐か?父親は娘のPCで彼女が利用していたSNSにアクセスし、手がかりを捜索。やがて娘の知られざる素顔が浮き彫りになっていく。本作がユニークなのは、全編がパソコンやスマホの画面で構成された一種のPOV作品であること。SNSのほか、メールやスカイプを通し思いがけない情報が飛びだす先読みできない展開は、利便性と同時に怖さも実感させられる。 シリーズ第2作となる『search/#サーチ2』(23)は、海外旅行に出かけた先で行方不明になった母親を捜す娘の物語だ。前作の父親とは違って、今作はデジタルネイティブの若者を主人公にしたのがポイント。彼女はSNSやメール、アプリに加え、監視カメラや銀行の出入金記録などありとあらゆる情報にアクセス。ウーバーや代行業者に協力を依頼するなど、大胆な行動によって真実を暴きだす様がスリリングに描かれた。 ■使い方次第で大きく変わるツールをリアリティたっぷりに描く 中島裕翔主演作『#マンホール』(23)は、マンホールに落ちた青年がスマホを使って脱出を試みるシチュエーション・スリラー。結婚式の前夜、パーティーで酩酊した川村(中島)が目を覚ましたのは朽ち果てたマンホールの底。右足に大怪我を負い動けない彼は、スマホで救助を求めるが…。GPSの不具合で自分の居場所がわからないと知ると、SNSに画像をアップし情報提供を呼びかけ、元カノの協力を得ながら自分の居場所を割りだそうとする川村。スマホやネットをサバイバルツールとして活用した本作だが、同時に“偽装”というデジタルならではのヒネリも効かせたワザありの作品だ。 ナオミ・ワッツ主演の『デスパレート・ラン』(21)もスマホを手にサバイバルする主婦を描いたスリラー。自宅から離れた森でのジョギング中に息子の学校で銃撃事件が起きたことを知った母親が、ママ友たちとの情報共有やマップ、AR機能を使ったルート検索、グループ通話を駆使して息子のもとに駆けつける。収税課に勤める彼女は職場と連携し、警察より先に犯人の割りだしに成功するなど、スマホをフル活用して活躍した。 いまや社会インフラというべき大手ECサイトを題材にし、大ヒット中の社会派サスペンス『ラストマイル』(公開中)。大手ネットECサイトのセンター長の舟渡(満島ひかり)は、自社の荷物を使った連続爆弾事件に挑む。ネットという手軽さと迅速な配送で定着したECだが、近年の需要拡大と共に過重労働など現場の過酷な環境も浮き彫りになっている。ITを直接絡めた物語ではないが、ネットが持つ負の側面を浮き彫りにしたいまの時代だからこそ生まれた作品と言える。 ■多くの人が利用する”マッチングアプリ”に潜む闇を浮き彫りに… 『マッチング』も作品のベースにあるのは、テクノロジーの進化によって増大するセキュリティの危険度。解析能力の向上によってわずかなヒントから多くの情報を入手可能になった現在、個人レベルで悪意を持った攻撃者から身を守るのは困難だ。吐夢は輪花が自分のメールを無視するようになると彼女の住所を特定し、突然自宅を訪問する。思わず背筋が寒くなる、ショッキングな一幕だ。 そして情報を管理する側のモラルに言及しているのも本作の特徴。マッチングサイトの管理者が、“パトロール”と称して会員同士のやりとりを覗き見する姿にもネット社会の闇が見て取れる。匿名性の担保を前提に浸透してきたネット社会だが、情報を運営しているのはあくまでも人間。改めて情報管理の大切さを思い知らされる。 ■交錯する登場人物たちの思惑にも注目 本作に登場する人々はそれぞれが秘密や闇を抱えており、それがドラマに奥行きを与えている。誰が敵か味方か予測しづらく、時に明かされた謎や回収した伏線がひっくり返されるなど、二転三転する展開でラストカットまで観る者を翻弄。2周目以降は、さりげないセリフの抑揚、目や表情の些細な変化に注意しながら鑑賞すると映画がより深く楽しめる。時に静止したり巻き戻したりするなど、再生ペースを自由にコントロールできるのはパッケージならではだ。Blu-ray、DVD共に豪華版には映画の裏側を追ったメイキングのほか、土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキの3人と内田英治監督によるビジュアルコメンタリーも収録されており、スタッフ&キャストが映画に込めた想いも確認できる。 加速度的に進化していくテクノロジーの綻びを突くように、進化を遂げてきたサスペンス映画。1000億円の市場規模を誇るというマッチングアプリを題材に、人の心の闇を描いた『マッチング』はまさに鮮度100%。いまだからこそ最高の形で味わえるスリルをじっくり体感してほしい。 文/神武団四郎