がん患者ごとに最適な治験をAIが提案、米トリオミクスが23億円調達
米国のがん専門医は、患者に変化をもたらし得る多くの革新的な臨床試験や新しい治療法を利用できる可能性がある。だが、患者にどの治験が最適なのかを特定するのは時間がかかる。複数の患者に対してその作業を行うとなると、なおさらだ。カリフォルニア州サンフランシスコのスタートアップTriomics(トリオミクス)は、人工知能(AI)を用いた自社のプラットフォームがその解決策だと主張している。 「当社のテクノロジーは多くの患者を救うことができると考えている」とトリオミクスの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のサリム・カーンは話す。同社は米国時間5月9日、新たに1500万ドル(約23億円)を調達したと発表した。「患者の一覧表を見直すという作業の負荷は、患者が臨床試験やバイオマーカーを用いた治療を受けられないなど、臨床の遅れにつながる可能性がある」とカーンは言う。 トリオミクスによると、現在、患者データの約20%は既存のテクノロジーで対応可能なアクセスしやすいフォーマットで保存されている。だが残りの80%は医師のメモのような非構造化データで、手作業で検索する必要がある。がん専門医は各患者の重要なデータポイントを特定するために、つまり治験や新しい治療法を利用できるかどうかを確認するために、全記録を丹念に調べる必要がある。 そうした手作業に取って代わるのがトリオミクスのプラットフォームだ。特別に開発された大規模言語モデル(LLM)を使用する同社のプラットフォームは、がん専門医がそうした作業に時間をとられることがないようにし、また多くの患者により良い治療結果を迅速に提供することを目指している。
マッチングの精度は手作業の95%
同社によると、提供するAIを用いたソリューションによる患者と臨床試験のマッチングの精度は手作業で行った場合に比べて95%だが、マッチングそのものにかかる時間はものの数分だ。「全ては患者が最善の治療を受ける機会を最大化するためだ」とカーンは言う。 トリオミクスの技術は他にも応用できると同社は指摘する。プラットフォームでは品質保証から治療スケジュールなどのクリニカルパスの追跡まで、多様なユースケースに伴うさまざまな手作業を医療提供者は自動化できると宣伝している。 だが、最も注目を集めそうなのは、患者が治験や治療を利用しやすくすることに重点を置いている点だろう。トリオミクスのプラットフォームをいち早く採用したウィスコンシン医科大学がんセンターの外科腫瘍医アナイ・コタリは「複雑ながんデータを迅速かつ正確に患者のケアの改善に使用できるフォーマットに変換できることは極めて重要だ」と語る。 トリオミクスの共同創業者で最高技術責任者(CTO)のフリツラジ・シンは、2020年の創業以来の成功は、2つの異なるタイプの人材を取り込んできたことを反映したものだと言う。「中核となる重点分野への投資は計画的に行ってきた」とシン。「言語モデルを特定の領域に合うようカスタマイズするAI研究者と、数十年にわたってがんを専門としてきた臨床スタッフという、2つの複雑な部門における専門知識をうまく融合させている」 そうして同社は多くの病院やヘルスケア機関の協力を得てプラットフォームを構築してきた。同社は今、商業化の段階に入り、年内には15の医療機関と契約することを目指している。 明らかに、同社が今後躍進する上で鍵を握るのは知的財産だ。そのため、今回の資金調達は引き続き人材を採用することが主な目的だ。現在、同社は約50人の専門家を抱えているが、短中期的には60人程度まで増やすつもりだ。 今回の資金調達ラウンドには、ライトスピード、ネクサス・ベンチャー・パートナーズ、ゼネラルカタリスト、Yコンビネーターなどの投資家が参加した。出資はトリオミクスのポテンシャルに注目してのことだ。 ライトスピードのパートナー、デブ・カレーは「トリオミクスは病院の職員が既存のヘルスケアのデータセットと生成型AIを活用して臨床試験を自動化し、がんセンターの業務の流れを合理化できるよう支えている」と言う。 ネクサス・ベンチャー・パートナーズのマネージングディレクター、ジシュヌ・バタカルジーは「がんに特化した独自のLLMで確固たる初期成果が得られ、また主要ながん治療・研究センターと提携しているトリオミクスは、米国および世界のがん医療機関と患者に大きな価値を提供する態勢が整っている」と話している。
David Prosser