「イモより米が食べたい」 現金によって素朴だったパプアニューギニアの食風景が大きく変わっていた
米、インスタント麺、サバ缶。台所できらきらしているのは現金の食だ。さらには、ジュースも電話代も学校教育も現金じゃないと手に入らないし、現金需要が高まっていると言えるだろう。 ■ 現金がほしい ところで、近年パプアニューギニアは治安がさらに悪化していると言われる。金品強奪を目的とした犯罪が頻発していて、現金が保管されている銀行やレストランを給料日前に襲撃する例などがあるそうだ。背景には物価高騰と生活困窮者の多さがあるとされるが、確かに市場で売っている食料以外は日本並みかそれ以上の高さで、どうやって生活できるのかわからなかった。
信仰も変化している。この村ではここ数年でヤムイモの神様を祀る伝統信仰からキリスト教への移行が進んでおり、村の男性曰く「昔はヤムイモの神様に収穫を祈ってさえいればよかったけれど、今は現金の時代だからね。イエスキリストは食べ物だけでなく現金も与えてくれる」と。言葉が出なかった。 現金が社会を変え、食を変えている。これが遠い南太平洋の国の話で済んだら「大変だねえ」で済むのだが、私たちが生きる現金社会もきっとこういう変化を経て出来上がったものなのだ。現金は社会の発展に大きく役に立ったが、社会を揺るがしもする諸刃の剣であることを、やわやわのインスタント麺を思いながら噛み締めた。
岡根谷 実里 :世界の台所探検家